岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第27回

アジフライ

2003年。先行きの見えない不況。
その年のマンガ界も明るい話題はあまりなく、コミックが売れなくなったねと呟く書店員も多かったと聞きます。
そんな中ひとつのとてつもないマンガが始まりました。
それは「最強伝説黒沢」。
「カイジ」「アカギ」などギャンブルをテーマにしたマンガで数々のヒットを飛ばす、福本伸行が満を持してビッグコミックで始めた連載です。
「缶ビール」の項でも少し触れましたね。
ここ最近の大ネタだったので、いつか出るだろうと予想していた人もいたかと思います。


(図1)

主人公は何のとりえもない、むしろ人並み以下の人望しかない土木工事員の中年男・黒沢。
友達もいない、恋人もいない黒沢はせめて職場で人望を集めたい、と願うのだが、仕事で人望を集めることのできない黒沢は姑息な手段で人望を集めようと四苦八苦する…。

その姑息な手段、で登場したのがアジフライです。
人望を集めるのにアジフライ? 話が見えないですよ? と思うのもごもっとも。
当時読んだ人のほとんどがそのいじましさ、セコさ、人間の小ささにみんな仰天したくらいですから!


(図2)


(図3)


(図4)

現場の仕事で配給される普通の弁当。
そこに一品、アジフライが追加されたらどうだ? さりげなく気の利く男、をアピールできないか? もうこの発想からして限りなくセコいです。見てて涙します。

スーパーでアジフライの特売を見て気がつくこのシーンの黒沢がすごくいい!(図1) アジフライだ、アジフライを入れるんだ! と気づいた時のこの顔! (図2)

で皆が見ていないすきにカツ弁当にアジフライをギュウギュウ詰めこみ、 だれかが「今日の弁当豪華じゃないか?」「カツ弁当にアジフライって豪華すぎですよね」と切り出してくれたら、 颯爽と「俺が入れたんだよ」と打ち明けるつもり…
なんですが、誰もそれに気がつかない!(図3)
「カツ弁に、アジだぞ…そんなことありえたか? 振り返ってくれよ…お前らの…これまでの弁当ライフを!」(図4)
けっきょく誰もアジに気がついてくれず失意に落ちる黒沢なんですど、このエピソードの小心翼翼としたあたり、見ているのがツラくなるくらいです。

この際、オプション追加するのはコロッケじゃ安っぽいし、メンチカツだとカツでかぶるし、 のり弁みたいにちくわの天ぷらだとビンボ臭いし、やはりアジフライを選んだのは正解だったのですが、 何一つそこには正解の美しさはありません。ただただセコいだけです。
アジフライだからこそここまでミミッちくてビンボ臭くて、人間が小さいカンジすんのです。

例えばトンカツ定食、とか生姜焼き定食、というと豪勢な感じするしスタミナもつきそう。
昼食で言ったら上とまで言わなくとも、中の上くらいのランクはありそうです。
でもアジフライ定食、というと、実質生姜焼き定食と金額かわんないとは思うけど、何となくお金ないので妥協した感じがつきまといますね。
スタミナもつきそうになく、今日トンカツ食うか、というような食べる前の高揚感もアジフライでは起こるべくもなく、 ただひたすらモグモグと食い終わるのが目に見えてます。
ヘタしたら小骨がつっかえていやな思いすらしそうです。

またアジフライは庶民の味方で、コンビニや肉屋、スーパーのお惣菜コーナー、定食屋からホカ弁くらいまでが生息範囲で、 たとえばファミレスやきちんとした仕出し弁当とかお重には絶対出て来ません。
またコロッケやメンチと違ってパンに挟まったりしません。

カツのように丼に乗らないし、カレーが上にかかることもありません。串カツとかと違ってビヤホールに並ぶこともない。
コロッケだとそれ名物の店やデパ地下けっこうあるし、コロッケのチェーン店だってありますけど、アジフライのチェーン店なんて聞いたことないよ。
ここまでご飯の友、で徹底しているフライ物って、あんましないですよね。

それにしてもアジフライって、いったいなにをつけて食べるのが正解なんでしょうか?
これは難問らしく、社内の何人かに聞いてもなかなか答えがでませんでした。

数値的には1位ソース、2位ソースか醤油(つまりどっちでも良い)、3位醤油、以下1票づつでマヨネーズ、という結果でしたが、 トンカツ屋さんや定食屋だとマヨネーズを供するところもありますね。
僕は基本的にアジフライには何もつけないんですが、冷めてたらマヨネーズです。
たとえばトンカツだったら断然ソース、エビフライや白身フライはタルタルソース、みたいなこれじゃないと、というのがないのがアジフライのツラさでしょう。


(図5)

ほかにもマンガに登場したアジフライ、だと、ネコをおびき寄せるネタとしてだったり(図5・「whats michael?」)、 あと「美味しんぼ」43巻で、山岡が「庶民の味方アジフライ! こう下品にソースをジャブジャブかけてさ!」と喜々としながら食ってたのが思い出されますね。
なるほど山岡はソース派ですか。

それにしても今回気になったのが、アジフライをポン酢で食べると答えた女子がいたんですよ。
いままでもけっこう、うどんをポン酢で食べたり(つけ汁で)、シューマイをポン酢で食べたり、スパゲッティをポン酢で和えたり、 焼き魚にポン酢をかけたりというのを聞くにつれ、女子のポン酢信仰はなかなかのものだと思っていたものの、 さすがにアジフライにポン酢は考え付きませんでしたね。
この分だと、先進的な味を作り出すことに定評のある「うまい棒」やポテトチップにもポン酢味が登場することは間違いありません。

※この記事は2005年1月13日に掲載したものです。
(担当 岩井)

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