岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第17回

クローズ!ワースト!オーイエー!!!グレイテストヤンキーグルーヴ!!「焼き鳥」

みなさんヤンマガで連載している「ナニワトモアレ」ってマンガ知ってますか?
15年前の大阪、環状線を縄張りにするツッパリどもの歴史を振り返るマンガなんですが、
「いヤぁ〜〜グッさんのシルビアもけっこうキテるやんけ〜〜」とか
「お? あのコええんちゃう〜〜」とか
「そないゆうても簡単にはいかへんでェ〜〜」
とかいった、関西のヤンキーたちのアタマスッカラカンのアッパラパー会話(語尾の〜〜を口に出しながら読むと、パープーさがUPするのでぜひお試しください)が全体の10分の9を占め、 読んでも読んでも身につくものがなんもナイというおそるべき磨耗文化の代表ともいえるこのマンガ、 関西のヤンキーたち(ヨメさんのいるOBふくむ)に大絶賛なのだそうです。

フィクションでありながら大阪ヤンキーの生態が程よくリアルで、 しかもグループの抗争や女トラブルが「そういや俺らもそんなんあったなァ〜〜なあアケミ〜〜」と読む人の共感を呼ぶのでしょう。
『むかしけっこうヤンチャした』ヤンキーOBというのは読者層として大きいらしく、 それをターゲットにしたマンガは思いのほか多く出版されています。

ヤングサンデー、ヤングジャンプ、ヤングマガジン、ヤングアニマル・・・といったようにヤング何とか、 とつく雑誌のラインナップは、エロ、ヤンキー、ケンカ、車、お下劣ギャグ、の5つで成り立っているといっても過言ではありません。

つまり、ヤンキーがスケとドライブしながら「おれもむかしはムチャしたよなァ〜〜」などとウソ武勇伝を語りつつクドキ入れようとしている・・・、ヤングマガジン一冊を要約せよ、 といわれたら僕ならこう答えます。
男の子って本当にバカですね。われながらヤになります。



そんな中、高橋ヒロシ先生の7月の新刊「QP外伝」を読んでギクリとするシーンがありました。
先輩ヤクザと舎弟が飲みにいっての1シーンに過ぎないのですが、ひとしきりしんみりした話が続き、ちょっと会話が途絶える…そしておもむろに
「お前…焼き鳥食うか?」
この間! この言い方! この唐突さ! すべてにおいて完璧です!

僕はヤンキーでもなんでもなかったのですが、下町育ちということと、友達が板前をやっている関係もあって、 大学時代はなんだかやたらヤンキーの先輩にかわいがられてきました。

よく飲みに連れて行ってもらい、ずいぶんいろんなところにつれまわされたのですが、 自分でお金を払ったことはほとんどなかったように思います。
またどこの店に行っても、俺のボトルで飲んでいいから、と言われているので、いつもほとんど実際タダ酒でした。

こういう先輩たちと飲みにいくのは、言葉も選ばなければいけないし絶対に上を立てないといけないので緊張を強いられますが(たとえば僕の友達は長渕剛をちょっと悪く言っただけでブン殴られました)、今となってはいい思い出です。

だいたいそういったときですね…ひとしきりバカ話で盛り上がったあとに、場が一瞬静かになる。
なんだか続ける話がない。
そうしたとき、たいてい先輩たちはこんな感じでおもむろに言うのです。
「おい、お前、…焼き鳥くうか?」
このときに重要なのは「何でもいいから頼めよ」とあいまいではなく、必ず具体的な品名が出ることと、「おい、焼き鳥くおうぜ」というように自分が主語にならない点です。先輩的には、恐縮して食べたいのを我慢してるんじゃないかと気を使って言うのでしょうが、なぜ品名が具体的なのかはいつも謎でした。
それも、どの先輩も同じようなタイミングで同じような唐突さでこういった言い方をするのです。
あと、まず第一声はいつも焼き鳥で、たとえば揚げだし豆腐とか肉ジャガだったりしたためしがありません。
必ず焼き鳥。それでいながら、塩かタレかきかれたときには先輩がみんな答えてしまいます。
なのにいざ焼き鳥が来ても、ほとんど手をつけません。これも、どの先輩も同じです。こうなると様式美の世界ですね。

ちなみにきかれた時に恐縮して「いや、さっき食べたばかりで腹いっぱいなんスよ」などと答えると「じゃあポテトフライなら食えんだろ。ポテト食うか?」と来ます。
それにしてもこういう実体験を高橋ヒロシさんもしたのでしょうか? このコマ、ストーリー的にはそんなに必要じゃない部分なんですよ。
でもこのコマ、すごくかきたかったんじゃないかと思いますね。

そしてもうひとつ「QP外伝」を読んでいて思い出したのは、このヤクザの先輩が「ヒコさん」という名前なのですが、 同年代の人間と話していると、だいたい先輩の名前が共通していて「ヒコ先輩」「アキラ先輩」「ナベさん」「ヒロさん」なんです。
皆さんもこういう愛称の先輩、たぶんいたはずです。
そしてなぜか、いつもこの中で一番凶暴だったりケンカが鬼のように強かったりするのは、決まって「アキラ先輩」なんです。これも、なぜか共通します。

余談ですが、芸能界屈指の縦社会であるジャニーズ事務所では、最年長権力者は近藤真彦になります。
もちろん売れている順、といえばキムタクとかのほうが上でしょうが、センパイとしては近藤真彦のほうが断然上になるのです。
そこで、上は少年隊から下はジュニアの子たちまで、ジャニーズ事務所では近藤真彦のことを「マッチさん」と呼ぶそうです。
マッチとしての過去の栄光はもちろん認めたうえで、さらに敬称として『さん』付けする…さすが滅私奉公が絶対のジャニーズタレント。
この気配りがなければ森光子には気にいられません。たとえ年端も行かぬジュニアの子たちでも本能的に知っているこういう処世術。
なんだか空恐ろしいです。

※この記事は2004年9月1日に掲載したものです。
(担当 岩井)

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