岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第7回

「一本うどん」



作家・池波正太郎さんは、食べることと映画を見るのが非常に好きだったようで、時代小説以外にも映画や食べ物にまつわるエッセイを数多く残しています。

小説の「鬼平犯科帳」シリーズや「仕置人藤枝梅安」シリーズを読んだ方なら、その時代の町人が、どんな食事をしていたかが物語の折に登場するのを思い出せるはずです。
そんな池波時代劇のなかでも、長いこと謎だった食べ物がありました。それが今回紹介する「一本うどん」です。

どうやら小麦粉で練った親指くらいの太さのうどんらしいのですが、名が示すとおり、 何本もあるのではなくて、一本のすごく長いやつがとぐろを巻いてセイロの上に盛ってある、濃い目のつゆにつけてたべる、と本文にはあります。

太すぎて普通のうどんのようにすすることが出来ないから、箸でちぎって食べるらしいです。
日本の麺文化の中でもかなり奇妙な一品です。
しかし一本の太いうどんがとぐろを巻いてる、というと、やはり「Drスランプアラレちゃん」に出てくるウンチみたいになっているのではないか。
食欲をそそるかといわれたら、ノーと答えるほかないですね。

鬼平ファンの間では長いことこの「一本うどん」はそのあまりの奇妙さから謎とされていたのですが、今ではメニューに加えるうどん屋、蕎麦屋が少ないもののあるようです。 ためしに一本うどん、でネットで探してみると、出るわ出るわ、コレだけの人があの一本うどんを心にとどめていたのかと感心させられます。

なんでも昨年発行された鬼平犯科帳のムックで、一本うどんの試作記が掲載されたらしいし、ドラマ版のDVDでも登場するシーンがあるようなのですが、残念ながら未見です。

マンガ版の「鬼平」はさいとうたかを先生が描いてますが、この一本うどんは52巻、106回目の「掻堀のおけい」に登場します(16巻「男色一本饂飩」の回は残念ながら文章でしか登場しません)。で、見てみると・・・想像したとおりなのですが、やはり目を奪われる姿です。

異常に太いうどん、と考えれば納得できるのですが、一本、というのがやっぱり謎です。
平べったいきしめんでさえ、湯で時間が12分前後掛かることを考えると、この太さだといったい何分茹で上げる必要があるのか、も謎です。

すするのではなくちぎってたべる、というからうどんというよりも蕎麦がきや白玉に近いものなのかもしれません。
美味しいか? と問われたら・・・微妙ですね。
でも、食べたいか?ときかれたら自信を持ってハイと答えると思います。
美味くなくともいい、話のタネに食べてみたい・・・そんな気がする一本うどんです。

余談ですが、うどんの聖地・香川県は製麺所が一般客に食べさせる、 製麺所系と呼ばれるシステムの店があるそうなのですが、そもそもの発端は、うどんのゆでたてを食わせろ!と近所の人たちが押しかけてきたり、 小売してもらったうどんをその場で醤油かけて喰ったりする輩が続出したためという説があります。

そば好き、というと粋、とか通人、のイメージがある中、うどん好きの人たちの暴れっぷりは到底大人とは思えません。
うどんにはまだまだ謎が多いです。

※この記事は2004年7月3日に掲載したものです。

(担当 岩井)

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