岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第24回

タテだかヨコだかわからんステーキ

いまやステーキ、の地位は下落しており、同じ材料、同じ調理法でありながら、焼肉に比べると人気もかなり差がついている昨今です。
今日焼肉いくか、といわれようものなら、じゃあ骨付きカルビ1に、上カルビ2、上ハラミ2に、レバー1にギアラ1にキムチとナムルに・・・と組み立てがバ バッと浮かんでくるのですが、ステーキ食いに行くか、といわれてもなんか焼肉ほどの盛り上がりはありません。

それにしても焼肉の、肉を焼いて甘辛いタレでたべる、だけなのに異様にテンション高くなる仕業はなんなのでしょう?
僕は牛ハラミ(g/300円)を一本買いしたり焼肉専用ガスコンロが家にあったり焼肉のタレが家に6種類もあったりするバカな男やもめですが、 いつも肉を焼いているうちに気分が高揚してくるのが不思議でなりません。
まあそれでも、しいたけやししとうを焼いてハイテンションになったことはないんですけど。

かたやステーキは自宅でも普通に食べれるし、味も単調だしで、いかにもアメリカ的。
以前に比べてご馳走、という感じは薄くなったとおもいます。
ですがビーフステーキを略してビフテキ、と呼ぶような時代は、もうご馳走中の大ご馳走でした。

だいたいいまはステーキ、といえば牛肉に決まってるわけだから、いちいちビフをつけませんが、当時は油断していたら牛肉じゃないののステーキを出されたりしたのです。
だから相互確認のため「ビフ」をつけてこれはブタや羊じゃないですからね、と強調したんですね。

余談ですが、30年ほど昔は飲み屋で「焼き鳥」と漢字で書いてあれば鶏肉のちゃんとしたもので、 「やきとり」とひらがなで書いてあれば、それはブタのモツだったり内臓だったりする(いまでいうところの「やきとん」)可能性がある、 という良く分からない暗黙の了解がありました。
この微妙さ、あいまいさがいかにも日本的ですね。
たぶん「このヤキトリはポークです」と外国人に説明してもハァ?と首をひねるばかりで理解してくれないでしょうね。


(図1)


(図2)

ステーキはそういった非日常のご馳走、という役割でスキヤキ、まつたけとともにマンガに頻繁に登場しがちです。
ですがそのご馳走感、インパクトの強さだと貧乏独身男マンガの古典「男おいどん」に登場するこのステーキに勝てるものはないかもしれません。

それが、これ。
有名な「タテだかヨコだかわからんステーキ」です(図1・図2)。
つまり厚さの概念がタテでもヨコでもない大きさ。
肉魂ですね、こりゃ。
ふつうステーキは枚数で数える、どちらかといえば平面体ですけれども、ますが、これは直方体、立方体というほうがよい、巨大な巨大なサイコロステーキ。
でも、こんなにデカイと間違いなく生焼け。
それもレア、とかじゃなくて、中心部はただの生肉です!

もともと「男おいどん」にはラーメンライス、サルマタケなど、強烈な印象の食べ物が登場するのですが、 そういった常連に比べるとたった一度しか登場していないんですが、この「タテだかヨコだかわからない」という説明の絶妙さ。
肉、というコトバがもっていた憧れが実感できてイイですね。

これ、焼く前の肉魂段階で30センチ×30センチ、焼いて縮んでも20センチ×20センチくらいありますよ。
普通のステーキを20センチ×厚さ2センチで見積もれば、それを10枚重ねれてこの厚さに。
普通のステーキは幅が約7センチ強なのでさらに3倍すると、普通のステーキ30枚分の大きさ、と分かります。
通常のステーキは半ポンドで220グラム。×30で6.6キロ。
まあ食べきれる量じゃないですね。
アメリカ人なんかだと女性でも1ポンドのステーキを軽々と平らげるのが普通、だそうですが、いくらなんでも15ポンドも肉食うアメリカ人はいないでしょう。

ですがおいどんこと大山くんはふつうにこれをぜんぶ平らげています。
これは並大抵の大食いではありません。
この話以外でも10人前くらいのラーメンライスを平らげた回もあるなど、ヤセの大食いとはこういうことですね。
またこのステーキ、管理人のバアさんのおごりなのですが、いまステーキ用のお肉の相場は輸入牛で100グラム300円くらい。6.6キロだと約2万円です。
たぶん皆さんが2万円の臨時収入があったとしても、じゃあ牛肉を7キロ買ってこようぜ、合点です、 などとは絶対に思わないことを考えると、ある意味ではとんでもないゼイタクなのかもしれません。

ヤセの大食い、で思い出したのですが、名古屋店に出張していた時分、スタッフ5人で焼肉の食い放題に行ったことがあります。
あとで計算したら、合計75人前くらいを平らげたという恐るべき会食になったのですが、そのとき1番食べたのが、現渋谷店ビンテージのK山さんでした。

この人、放っておけばかなりのイケ面(つら)で通るのですが、いきなり米を4合食ったり(おかず無しで!)、 うどんを6玉くったり(つゆをつけずに!)とハンパない胃袋(と舌)の持ち主。
この日も店の人が恐る恐るラストオーダーなんですが・・・といいに来た所、 「岩井さん、最後タン塩10人前くらい頼んでおきます?それとも15人前?」 とフツーにいいましたね!
食い放題とはいえ残すと罰金、のルールありで最後にタン塩10人前。
デキる男は最後のツメが辛いなあ、と納得した次第です。

さらに余談ですが、むかし高っかい鉄板焼きのお店につれてもらっていった時に、 むかいのテーブルの年配のおじいさんグループが、お店の人に焼き具合はいかがしますか?と聞かれて、一人がおもむろに答えて一言。
「よーく、焼いてくれ」
「ウエルダンですね?」
「うんうん、よーく焼いてくれ」
「かしこまりました」
かえって旨そうですよ。
レアだなんだという言い方はダメ。男だったらよーく焼く。シンプルゆえにカッコイイ。
たぶんレア→ミディアム→ウエルダン、のうえに、 もっともっとムダにジャンジャカ火を通す「よーく焼く」という設定をひとつ付け加えるとよいんじゃないか。おじいさんのために! そう感じました。

さらにさらに余談なのですが、小学校の時の卒業文集で、欄外に「好きなもの」を書く、というスペースがありました。
で、みんな子供らしくハンバーグ、とかラーメン、と書いているのですが、近所の洋菓子店の娘が書いたのは、そこにたった一文字、
「肉」
それも筆ペンで書いたみたいな太い文字で。

オマエそんなに肉が好きなのかよ、と、次の日から男子に「肉、肉〜」と呼び捨てにされてました。
思春期の娘のあだ名が肉。この上なく哀しいアダナです。

ちなみに僕の友だちは質問の意味を取り違え「ジャッキーチェン、メロン」と書いてました。
ジャッキーは食い物かよ! メロンと並列かよ! といまさらながら小学生のバカっぷりには頭が下がります。

男おいどん、など松本零士さんのコミックスは本店にあります。お探しの方はどうぞ。

※この記事は2004年11月12日に掲載したものです。
(担当 岩井)

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まんだらけ中野店(詳しい店舗地図はこちら)
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