岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第9回 |
「ボクシングといえば小さなステーキ」
さて今回はステーキです。といっても、普通のステーキではありません。ボクシングマンガの金字塔といえば誰もが思い浮かべる「あしたのジョー」ですが、梶原一騎&ちばてつや先生とも意外に食のイメージやシーン、回想が登場することが多いため、必然的にジョーにも食べ物シーンが出てきます。
たとえば、マンモス西が鼻から吹きだしたうどん・・・
乾物屋ののりちゃんとデートしたときに出た、トマトのサンドイッチ・・・
減量に苦しむジョーをあきらめさせようと丹下段平が用意したご馳走・・・などなど。
そういえば減量、といえば、ジョーが金竜飛と闘うために減量苦に陥り、やっとの思いで軽量をパス。
試合前のわずかな時間にジョーが食べる小さな小さなステーキ・・・これが思い出されてなりません。
アニメでもコミックスでも、ジョーといえばこのシーンばかり思い出してしまう僕はひょっとしてダメなんでしょうか?もっと感動に残るシーンは一杯あったのに・・・。
レストランで丹下のおっちゃんが、
「この一枚のちっぽけなステーキを・・・わずかなスープとサラダを・・・あごがくたびれるほどよくかんで味わって食うがいい」
というように、本当に小さな小さなステーキ。
ジョーはそれを丁寧にゆっくりと口に運んでいきます。
減量の苦しみのあとのやっと食べれた充足感が伝わってくるシーンです(もっともそのあと金竜飛があらわれて、わたしは食料のために親を殺した、などとブルーな告白をするので台無しになるのですが)。
7巻のラストに、やはり減量に悩むボクサーが出てきて「減量食なんて最低だ、豪華絢爛でゼイタクで太らない食事がしてえ」などと女の腐ったような言葉を十も二十も吐きます。
そこで山岡が発案したのが、一流レストランで食べる野菜のフルコース・・・というストーリー。
その最後に登場するメインディッシュが、わずか60グラムのタルタルステーキなのです。
牛の赤身で作っていて、なおかつ焼くのに油を用いていないからヘルシー、という言い分ですが、減量するのにフルコース?ぜいたく?と釈然としません。
こんなんだから日本人は世界タイトル奪取を失敗しつづけるのです。
ではリアルな減量ボクサーって? という話であれば「一歩と同じ練習をすれば日本タイトルくらいは取れる」とうわさされるほどの取材力で成り立っている「はじめの一歩」。
一歩の先輩・鷹村が水分を少しでも体から吐き出すために口に干ししいたけをしゃぶる・・・椎茸が水分で膨れ上がったら捨てる・・・あまりの水分欲しさに、水道から水滴が落ちる音が気になって眠れない・・・などなど。
ああボクサーでなくて良かったとホッとするくらいリアルです。
ちなみに学生時代にこの小さなステーキを再現しよう!と作ったことがあったのですが、薄いので火の通しが難しく、なんだかステーキと言うよりただの焼き肉、になってしまったのが残念でした。
お肉屋さんで牛ヒレの最上級の肉を使って再現すると、充実感もあってよいかもしれません。
※この記事は2004年7月11日に掲載したものです。
(担当 岩井)