岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第15回

「マタタビ」

前回は中島らもさんの追悼でしたが、らもさんが晩年大麻で捕まったことは先述しました。
そういえば人間はともかく、動物はラリリになったりするのでしょうか?


(図1)
「殺し屋イチ」にこんなシーンがあります。
ヘロインの密売者が飼っている犬にドラッグをあたえたら、蹴られても殴られてもドラッグ欲しさに追従してくる・・・と(図1)。動物にも効き目はあるのです。

しかしそういったケミカルなものでなく、しかもペットショップでも売っているようなもの、となると「またたび」を置いてほかにないでしょう。
またたびって、猫の好物でしょう? 食べれるの? と思う方も多いかもしれませんが、山間部に住む方にはご存知のとおり、またたびの実は漬物にしたりまたたび酒を造ったりして食します。


(図2)
今回はつげ義春さんの「二岐渓谷」という小編にまたたびの甘露煮、が登場しています(図2)。扱いとしては山菜ですね。
基本的には、山菜なんてものは珍味とかではなく、稲作に適する土地が少なかったり、食べるものが乏しい山間部での保存食としてのものです。

田舎育ちの父、母ともに山菜狩りが好きだったので、僕も春先になると子供のころは山に山菜をとりに出かけました。
とるものはせいぜいわらび、ぜんまい、木の芽、フキ、ウドに根曲がり筍・・・という程度です。

子供のころは山菜もうまいと思ったことはほとんどないのですが、自家製の干しぜんまいを作ったり山菜のてんぷらをたらふく食べてたりと、今かんがえれば贅沢をしていたものです。
そんな僕でも、またたびは実のしょうゆ漬を食べたことがある程度。
確かにうまいものではありませんでしたね。
しかし猫に一個あげれば、それはそれは大興奮してしまって大変なことになります。


(図3)
作中でも「マタタビがたくさんなっているので、猫がうれしがっちゃってだめなんですよ」(図3)とその中毒性に触れられています。
以下、またたびラリリ猫たちのエピソード。

高校のとき、山にハイキングにいったさい、「猫にお土産 またたび」と、またたびの枝が売っていました。
家で飼い猫に与えてみると、ものすごい狂いっぷりです。4つの足で抱え込んでしまって離しません。
なめて噛んで目は開きっぱなし、あたりはよだれでだらだらになってしまい、とんでもないラリリねこになってしまったのであわてて奪おうとしたら、引っかいたり噛み付いてくる有様です。
やっとのことで取り上げて籐の家具に隠しておいたら、猫が何匹もその家具から離れず、引き出しを開けようと飛びついてくるのです。

一ヵ月後に家具は爪でズタズタにされてしまいました。
一度など、飼い猫じゃない野良猫がどこかから忍び込んできて、その家具のうえで狂ったように爪とぎをしていました。
また、いちどふざけて、ネコのあたまに粉末のまたたびをかけたところ(絶対にまねしないでください)、一匹のネコの頭を4匹くらいのネコが取り囲み、四六時中ペロペロなめまくっているので爆笑。取り囲んだネコたちはやがてまたたび効果で凶暴化し、後ろ足でネコキックをくらわしたり噛み付いたりします。なめられているネコはまたたびのにおいはするのですが味わえないので不機嫌になり、ものすごい大喧嘩が始まってしまいました。 5匹の猫が部屋でマジ喧嘩。部屋中毛だらけの大惨事になってしまいました。あの粉末はちょっと効き目が強すぎると思います。

さらに近所の野良猫の溜まり場にいって一度与えたところ、普段免疫のない野良たちはいっぺんで中毒になり、しまいには溜まり場に僕が現れただけでネコが鳴きながら20匹以上集まってしまうように。
考えてみてください。ネコ20匹に囲まれる男子高校生って、おかしいですよ。
そのため「なんだか異常にネコに慕われている兄ちゃんがいる」と隣町で話題になってしまいました。

これは八百屋のおじさんから聞いた話ですが、またたび酒を造ろうと思って一升瓶にまたたびの実と酒を入れて外においておいたそうです。
しばらくたった夜。何かゴロゴロ転がる音が道路に響き、眠れません。
なんだろうと思って外をのぞいてみると、なにやら黒いかたまりが道路をゆっくりと動いています。
近寄ってみたらそれは何匹もの猫が、またたび酒のにおいに我慢できず、鼻先で一升瓶をころがしながら、おしあいへしあいしていたのでした・・・。いやあ、ファンタジーですね。

余談ですが、山形の人は自他共に認める山菜狩り好きで、秋田や新潟、福島といった他県の山まで山菜を狩りに行くほどです(ちなみにうちの父も山形県人です)。
そのため毎年春先になると、山菜狩りの遭難者や行方不明者が何人も出、しかも死体が見つかったのが隣の県、などといったダイナミックな結末を迎えるのです。
昔の食料が少なかったころならいざ知らず、遭難も辞さず、山菜を親の敵のようにとりまくる山形の人には一種尊敬の念を禁じえません。

つげ義春の「二岐渓谷」の掲載されている「リアリズムの宿」は本店2にて取り扱いしております。興味のある方はどうぞ。

※この記事は2004年8月19日に掲載したものです。
(担当 岩井)

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