岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第25回 |
たわし混入
(図1)
ひとつはがまん大会。
もうひとつは闇鍋。
がまん大会はというと、ほらアレ、コタツに入ってどてらを着こんで熱い鍋焼きうどんを食べるとか、 素っ裸で寒空のもと走り回ったり、寒中水泳したりといったやつです。
言葉としてはけっこう一般度高いですが、
「がまん大会で惜しくも2位だったよ」とか
「ことしは年末からがまん大会のために体調管理しててさ」
といった会話が交わされているのは聞いたことがありません。
闇鍋も同様ですね。
つまり食べ物を持ち寄って鍋で煮込み、電気を消して何が当たるかわからなくして食べる、という趣向のもの。
マンガには登場するが、実際にしたことがある人にはついぞであったことがありません。
マンガに登場した闇鍋、は僕の記憶だと10回程度目にしているはずですが、いつも必ず食べ物ではないものが鍋に入っていたように思います。
それも必ず、履き物が入っている。
記憶だと、クツ、ゲタ、長靴。この三つのうちどれかは必ず入ってて、そして「いいダシが出るよ」みたいなことを必ず誰かが口走っていたとおもいます。
チャップリンの映画だったかと思うのですが、革靴を食べるシーンがありましたね。
たしかに革だから動物性だよ。食って食えないことも無いかもしれません。
でもゲタって木だろ、長靴はゴムだよ。
そんなもん食えるか、という話にならず「いいダシがでるよ」で済ますあたりがいかにもオヤジ的発言ですね。
丼に片指つっこんで渡すような、不潔なラーメン屋のオヤジが良く使いそうな言い回しです。
(図2)
(図3)
ギクッとしたんですが、僕、そんときもうぜんぶ食べたあとだったんですよね…。
ドキドキしているとマスターは鷹揚にうなずいて一言「だーいじょうぶ、だいじょうぶ。腹に入っちゃえばおんなじですよ」。
すごいですね、調理に携わる人間のセリフじゃないですね。
しかしいちばん不思議なのが、水を3杯出したり、生焼けのトンカツ出したり、 それどころか客席にノラネコが座っている(飼い猫じゃないですよ)のに、みんな平気でこの店に来て、普通に繁盛しているんですよね。
東京の人は心が広いと思う次第です。
話を戻して、マンガではこの「食べれないものが紛れ込んでいた」というパターンは軽いギャグで使われることが多いのですが、 初期少女マンガではその代名詞は「たわし」でした。マーガレットの74年発行作品「星に願いを」(図1)をチラっと読んだだけでも、 実に2回もたわし混入が認められます(図2、図3)。1冊の単行本に2度たわし混入。これはかなりの頻度ですよ?
3年位前、食品に異物混入が相次ぎ、回収騒ぎが毎日のように起こっていた時期がありましたね。
やれ虫が混入していただの、人のツメが混入しただの、鉄粉が混入しただのといった騒動でしたが、そこに行くと、たわし混入はあまりにダイナミック。
だいたい味噌汁の中にあんなデカくて茶色いの入ってたら気づくだろ。
ていうかおたまですくった時に「具、でけえな」って気づけよ。
(図4)
思わず当ててしまったハマーが「何で食えないものはいってんのー?」と疑問に感じているのももっとも。
なぜたわしなんでしょう?
たとえば「東京フレンドパーク」で、最後の視聴者プレゼントのルーレット。
パジェロとか旅行、と一緒にたわしがありますよね。
たわしにダーツ当たると視聴者大笑い。
あと「新婚さんいらっしゃ〜い」でも、ガッカリアイテムとして亀の子たわしが入ってたとおもいます。
このオチ、の部分にたわしが使われつづけるのはなぜなのでしょう?
別にたわしじゃなくてもいいし、たわしである必然性は無いんですが。
(図5)
日本人のDNAに染み付いてしまった、やっぱりギャグの様式美なんですかねえ。
バナナ→すべってころぶ
金タライ→頭に落ちてグワーンと鳴る
たわし→ハズレの象徴
みたいな。小さなところで言えばさっきの
闇鍋→ゲタ、なんてのもそうでしょうね。
ところで「星に願いを」でも様式美的な場面(図5)、コショウでくしゃみ、というシーンがありますが、これどんな場面で使われたと思います?
答えはこれ(図6)。
(図6)
やる気まんまんのギラギラした野獣のような男が、コショウひとつで撃退できるくらいなら世の中に性犯罪は起こるまいと思うのですが、 クシャミというのは身体にすごい負担をかけるらしく、クシャミした瞬間に背骨を痛めることは珍しくないそうです。
それにハクションハクションしたあとに陰茎が超勃起してる、というのも考えにくいので、案外効果的かもしれません。
婦女子は夜の帰り道にはコショウ持参をおすすめします。
余談ですが、ホントにがまん大会なるものがただのネタなのかどうか調べるために何人かにがまん大会の経験を聞いてみたのですが、 雄々しさと生説教の厳しさで定評のある、本店の竹下さんは答えからしてブッ飛んでました。
「竹下さん、がまん大会ってしたことある?」
「ああ、オレ、がまんとかできないんです!」
もうがまん大会うんぬんじゃないです、オレはがまん自体出来ないんです!
という意味のわからない部分を主張されました。
なにくだらないこと聞いてんだ、とか難癖つけられそうな雰囲気を感じて背筋に冷たいものが走り、 早々に話を切り上げて立ち去ったのは言うまでもありません。
※この記事は2004年12月16日に掲載したものです。
(担当 岩井)
(担当 岩井)