岩井の本棚 「マンガけもの道」 第30回

マッチョテイストそれってどんな味?


(図2)
案外僕が知らないだけで、女性の間ではよく使われる隠語なんでしょうか


(図3)
レイプ恐喝とマムシに何の関連があるのでしょうか


(図6)
理解不能


(図7)
これ絶対死ぬよ


(図9)
イカすポージング


(図10)
なんなくていいんだけどな


(図14)
1車線全部使ってマッチョ歩き


(図15)
ちなみにズベ公たちは何も干渉してきてません


(図16)
と、いわれても対応に困るタンカ


(図18)
まるで糾弾会


(図19)
やな飲み会


(図20)
ブッチンプリン風呂に入るのが趣味


(図21)
弟はちなみにトコロテン風呂が好き


(図1)
ちなみに中表紙にはマッチョテイスト《男らしい感覚》という役に立たない訳がついています


(図4)
帽子さえなければ、武装戦線のメンバーと間違えるかもです

先日パチンコしていたら、隣のニィーチャンがガムをかみつつ、時々タバコを吸っていました。
そのうち席を立ったので、万券を両替しにいったかガムを捨てにいったのかと思ったのですが、戻ってきたその手には缶コーヒーが。

何事もないようにプシュと開け、グビリグビリと飲み、缶を傍らにおき、またクチャクチャとガム噛み再開。 これだけでもかなり器用というかバイリンガルな事態ですが、そのうち貧乏ゆすりをはじめました。

いったい何がしたいんだろう。
ガムを噛むのは口ざみしいからだろう。タバコを吸うのも口ざみしいからだろう。

すでにこれだけでかなり口ざみしいのは緩和できてると思うんだけれど、そこに缶コーヒーを飲むのはやりすぎじゃないでしょうか。

ていうか、コーヒー飲むときにガム口の中でどの位置にホールドしてるんだろう。飲み込んじゃわないのでしょうか。
あとガムとタバコとコーヒー、って味的にも組み合わせ最悪だと思うんだけどな。

もし落ち着きたくてタバコを吸っているんなら、真下で貧乏ゆすりすることはないじゃないか。 初代グラディウスで、意味もなくSPEEDばっかパワーアップしすぎて収拾つかなくて自爆するような有様です。

そんなことを考えていたら僕の台が突如ホワイトアウトしてユイ覚醒モードに入ったので、 うれしさのあまりその疑問は結論を出さずに終わったのですが、 人はすべて他者から理屈付けられる行動でのみ成り立っているわけではなく、 本人はきちんとその行動を説明できても、他人からは「オマエ何がしたいんだ」と思われることは多々あります。

マンガでもそれは然りで、主人公のダメぷりや、もしくは作者の迷走ぶりに「何がしたいんだよ、結局」とツッコミを入れるシーンはよくありますし、 ヒドいときには作者自身「何がなんだかわからなくなった」「収拾つかなくなっちゃった」とコマ外で告白することもあるほどです。

しかしそういった迷走・大風呂敷マンガをおさえ、もっとも主人公がワケわからない、 おまえさ結局何がしたいの?感が高いものといえば「マッチョテイスト」(図1)。

これ以上のものは、そうはないと思う。
主人公の行動が支離滅裂で非常に難解、まったく理解できない上に、 共感もできないんだけどインパクトだけは特盛り級。家系ラーメンの店に行って麺倍盛りでチャーシュー増量券×2枚、 脂多目で味濃い目。さらにライス大をつける。レンゲなし。
そんくらいのインパクトです。

そりゃどんなジャンルだよ!と聞かれたら、本来は「少女マンガ」と答えるべきなのでしょうが、 これは「マッチョ」というジャンル、と答えるほかない気がします。
そう、マッチョ、マッチョだよーーーッ!!

ハァ、ハァ、ハァァ・・・すみません、見苦しい部分をお見せしまして・・・。

マッチョ。このフルーティな語感の単語がこの作品を解くキーワードです。
マッチョを理解せずに「マッチョテイスト」を読み解くことは不可能なのです。

舞台は、洗濯船と呼ばれるアパート。
このアパートには独身女性ばかりが住んでいるのです。
住人のひとりがそこにフラフラと帰ってくる・・・。
乱暴された形跡。心配になって集まる住民たちはいう。

昨夜(ゆんべ)つっこまれたねあいつ・・・・・・・・・
「つ・・・強姦!(つっこみ)」(図2)

・・・フツーの女性はつっこみなんていわねえよ! しかし彼女は真っ青になるばかり。そこに現れる二人の不良。 写真をばら撒かれたくなきゃ100万持ってきな!と脅し、さらにおまえたちはヘビににらまれたカエルさ!といい、マムシを部屋に大量にバラまく(図3)。
だめだ、女の力では男の暴力にはかなわない・・・まして毒ヘビ持ってるし・・・と誰もがあきらめた瞬間、ヤツはきた!(図4)


(図5
くされイモって新鮮ですよね)

「くされイモ!! クズ! くさくてダサイよてめえら・・・・〜〜ッ!!」(図5)

それで難なく不良二人をブチ殴り粉砕し、こういうんだよ。

「私はマッチョさ!! 女のくさったみてえなてめえら・・・・なんかよりず〜っと男らしい女 マッチョガールさ!!」(図6)

マッチョ? マッチョガール? なにそのポリス帽? ちょっとまって何、何・・・ ワケわからなくなって読者が混乱している間にレイプされた女を「来なッ!」といってバイクに乗せ、雨の中ギュンギューンって走り狂う。 そしてジャンプして「忘れちまえーーッ!!」(図7)。

いやそのジャンプだと、忘れるどころかガケから落ちて死ぬとおもうけどな・・・でもこのひとことで女は立ちなおりメデタシメデタシ。 ちょっとまてネガはどうなったんだ、部屋にバラ撒かれたマムシはどうなったんだ!!となんにも解決しないままのメデタシ。

このマッチョガールの名は室戸灯。
古今東西の主人公の中でももっともマッチョもっとも共感できない主人公です。


(図8)
死ぬ前に「痩せてからでもおそくはない」って聞いたことない


灯は過去デブってたおかげで失恋し、ショックで死のうかとも思ったが、 太ってる身体をしまって見えるようにしてからでも遅くはないと思ってボディビルをはじめる。
そしたら身体がマッチョになり、世界が変わって見えた・・・そう、マッチョは人生を変えるのです(図8)。

灯はいう。「男はきらいさ!! いい女になって男を振り向かせようととしたんじゃないよッ。自分がいい男になってやろうって・・・そう決心したんだよ」。
それがマッチョガールなのです。


(図11)
男だと、50代のマッチョってサウナとかにいますけどね


(図12)
迷いナシ

洗濯船の仲間をオルグして、みなにマッチョ思想を植え付ける灯。
マッチョは愛らしいとか可愛らしいなんて絶対いわれない。< じゃあなんていってホメるのか?
それは・・・「君の汗が好きだ・・・・・・・!!」(図9)

変態だ! キモチ悪い! たぶん試合中の浅尾美和にこういってホメても、たぶん警備員に連行されると思うな・・・。

灯といっしょに朝夕ランニングしてダンベルをあげて筋肉を養う。
でもこの筋肉を誇示しちゃダメなんだ、そんなことじゃマッチョになれないよ(図10)、 虚栄心を捨てろ! それは女のいちばん醜いところなんだ!! 誇示しない・・・だからこそマッチョなんだよッ!!

でも灯サン、じゃあその革のベストは何? 頭のナチスみたいな帽子は何?
それはマッチョであることと無関係とはいえない気がするけど・・・。

じゃあ筋肉つけたって見せる相手いないじゃない、あなたは男にその姿を見せないの? いまはいいかもしれないけれど、男なしの生活なんて考えられないワ。 一生独身ですごすの? 40になっても50になってもマッチョでいるわけ!?(図11)

ムツカシイ根本的疑問を矢継ぎ早に投げかける仲間たち。
でも灯はフツーにこういった。

「そうよ!!」(図12)

「じゃァ誰かを愛するなんてことないわけ!?」
「自分自身を愛するのさ」

今までのマッチョ思想を要約すると、マッチョとは男以上に男らしくなり、しかも自分を愛すること。 逆にいえば自分以上に魅力的なものはいないから、必然的にそれ以下とはつきあえない・・・なんだかマッチョ思想が男根的といわれるのもわかる気がする、ブルーな思想ですね。 ブルーな思想、で思い出したけれど、極左(アカ)に対して、極右をアオっていいますしねえ・・・。


(図13)
サベツ的性欲発散法


しかしそうはいってもあたしたちはオンナよッ!とばかりに

「セックスの喜びはどうすンのよ その快楽も捨てろって言うのッ」
「ズキーンとしびれることを教えてあげるからついて来な!! 」
「な・・・なんなのよ!?」
「ダニ掃除さ」(図13)

繁華街をGメン75のオープニングみたいに一列横隊で、しかも革パン革ジャケのマッチョスタイルで練り歩く灯たち。物騒ですね、これはただの徒歩暴走族です(図14)。
そして路地裏の、ズベ公たちと目が合うや否や

「ダニどもがガンとばしてるよ!! タイマンはってきな!!」(図15)
「え!?」
「ひとりで行ってケンカしてくるんだよ!!」

ちょっとまて、セックスの話してたんじゃなかったっけ?タイマン? ガン飛ばしてる?
煽られると、グループでもいちばんの奥手の娘・モグ(第1話でレイプされた子)が突如豹変、 ズベ公をブン殴り「マッチョのモグをなめるんじゃァねえッ」とタンカをきる(図16)。 最後は灯がズベ公全員ブッ飛ばしてズベ公軍団は沈没。
するとなんでしょう、灯の後ろで見ていた仲間たちの頭上にピカーンとニュータイプ反応みたいな稲妻が走り


(図17)
本書最大の説得力皆無シーン


「しびれるーー!!」ズーン。

「モグのタンカきいてたら下半身がズキーンとなったよ セックスなんてじゃァないよ」(図17)

エエッ? しびれる!? タンカと殴り合いで? 世の男性が紀元前から現代まで一生懸命やってた下半身の努力は、 たかだかタンカにかなわないものだったんでしょうか・・・。
じゃあひょっとしたらセックスしてるときにタンカ切ったら快感3倍増? そういや快感3倍増って語感、なんか剣道3倍段に似てますね。

あとズベ公、なんもしてないのにいきなりぶん殴られてダニ呼ばわり。ヒドい話です。
自分たちの欲求が昂まったときに「ダニ退治さ」? すごい上からの目線ですね。

今までのマッチョ思想を要約すると、マッチョは常にひとり。
でも生理的欲求に耐えかねることがあったら、街に出ればいい。
街にはいつもダニがいて、そいつらは特にこちらに害を及ぼさなくてもブチ殴ってしまえばいい。
自分の快楽を満たすためにさ・・・。

これはもうマッチョで済ましていい問題なんでしょうか。
トルコ移民だというだけで排撃するネオナチと同じような気がするけどな・・・。

つづく話でもまったく共感できないマッチョエピソードばっかです。
たとえば失恋を思い出し、過去の悲しみに浸る女がポツリポツリと過去の男への恨み言を吐いたら、それを歌にして歌え!と強制。
「心の傷に指を突っ込むくらいじゃないとマッチョじゃないよーッ、言うんだよーッ」
といって、酒びたりのウツ状態の女に、衆人環視のもと、トラウマ独唱会をさせる(図18)。こんな悪意みたことない!

マッチョは悲しみを歌えるのさ・・・とかいってイイ話にしようとするけれど、自分の失恋話をみんなの前で詩にして読め、といわれたら、 マッチョうんぬんは別にしても死ぬほど恥かしい。できたもんじゃないですよ。どんなセミナーでしょうか。 ていうか聞かされるほうもたまったもんじゃないです。誰がこんな辛気臭い朗読会に行くものか(図19)!

しかしこの過激なマッチョ思想についていけるかといったらやっぱ常人はムリ。
ひとりが結婚することになったとたん、マッチョグループは男への恋しさが募り、マッチョ脱落して洗濯船をあとにする・・・。

ここまではマッチョ思想というネジくれたものを女性がやることのひととおりのスジはあったものの、 仲間がマッチョ思想から抜けるにしたがって灯自身も混乱しだし、マッチョ思想から逸脱しだします。
女ってなんなのさ?
マッチョでいつづけるのって無理なのか?
そして灯の生き方も迷走しはじめる・・・。というか、まったく何がやりたいのかがぜーんぜんわかんなくなります!

次回「マッチョだよーーッ!! その2 ためら愛」をお楽しみに!

※ なお余談ですが、「マッチョテイスト」発表の80年代初頭というとアメリカでゲイ・カルチャーが盛り上がっており、 バカ映画「ポリスアカデミー」でもハードゲイの社交場であるゲイバー「ブルーオイスター」(でしたっけ)がたびたびギャグとして登場したり、 江口寿史のマンガでもプッチンプリン好きのハードゲイ双生児、トーマス兄弟(図20・21)が登場してました。
レイザーラモンHGを見たときに、両者を思い出した人も多かったのでは。


※この記事は2007年5月4日に掲載したものです。

(担当岩井)

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まんだらけ中野店(詳しい店舗地図はこちら)
〒164-0001 東京都中野区中野5-52-15
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