岩井の本棚 「マンガけもの道」 第12回

衝撃!シャブ中マンガ


このジャケ、ビデ倫だったらNG描写

このタイトルをみて耳の裏あたりにビビッと電流が走り、当ページを思わず開いてしまった方は、 もちろん薬物に対して「ダメ!!ゼッタイ!!」的考えをお持ちいただいていることを前提でこの話をしたいのですが、 やっぱりシャブ、はメチャクチャ怖いです。

中学生くらいで、学校の視聴覚室なんかで、麻薬がいかに恐ろしいかを表現した啓蒙フィルムを見せられた経験ある方も多いと思いますが、 アレ、めちゃくちゃおっかない表現でしたね。

麻薬中毒の女の人が、禁断症状で腕をぶんぶん振り回してギャーギャー騒いでいるとか、 ガサ入れしているところが映されていたとうっすらと思い出されますが、何よりもナレーションが佐藤慶みたいなドンヨリした暗い声。
あんな声で言われたら「シャブ、ヤベェーよ」という気分にもなろうというもんです。

エロい事や違法なことに興味アリアリの中学生が、暗幕で囲まれた視聴覚室、 真っ青になって啓蒙フィルム見ていたことを考えると、警察の作るフィルムというのはトラウマ発信源として多大な影響を感じさせますね。
やっぱり警察ってすごいわ、と思う次第です。

最近のクラブなんぞに通う若い衆を監禁し、 全国民涙、のアニメ「火垂るの墓」とこの麻薬啓蒙フィルムを強制的に鑑賞させたら、もっと風紀は正されると思うんですが。


(図2)
ビビッと注射して…


(図3)
さあ、ヤルゾ!

僕は隣でタバコで吸われただけで咳き込むし、バ○ァリン飲んだだけでアレルギー反応出るような人間なのでドラッグなどもってのほかですが、 一説によると数百万人がマリファナ含む麻薬の経験があるとか。
そういった世情になるともちろん麻薬関連のマンガ、というものが出ていても不思議じゃありません。


(図4)
手の平の中に虫が…(幻覚)


(図6)
サックスで後遺症も何のその


(図9)
まじですか??


(図10)
これでも無害?


(図13)
ヤンキーつったらアンパン中毒


(図15)
経験者談を聞いてみたい

この「エンドレス・ドラッグ・ウォーズ リスク」は厚生省の麻薬取締部、 通称「マトリ」と、麻薬の売人達との抗争を描いた大傑作です。

作者は笠原倫。
秋田書店で活躍した後、大人向けコミックが主戦場の方。
僕は今まで笠原先生のマンガ読んだことなかったんですが、この「リスク」読んだ後は全作品に目を通したくなったほどです。

このマンガ、なにがすごいって、取り締まる側まで麻薬中毒だったヒトが混じっているので、 登場人物のほとんどがヤク中だという部分。もう2巻の表紙からして唇に注射してるしね!

とにかく豪速球、内角高めの豪速球だらけです。
ああ、そこに投げられると手が出ないですね、無理やり当てに行ってもファールですよね、という球。

始まって数ページ、広告代理店のチーフが、うまいプレゼンの方法がまとまらない!と悩み、トイレにいく。
部下達は「チーフはウンコがつかえると考えが出るんだよ」などとマヌケなことをうわさしてるんだけど、 実は彼はトイレでシャブやってたんです! で、やり終わった顔の開きっぷりがすごい!(図2、図3)


(図5)
妄想三つ目がとおる


(図7)
上がってきた? なにが?


(図8)
まあ営業の鉄則ですね

また主人公はかつて覚醒剤中毒にさせられた経験があり、ともすれば覚醒剤特有の後遺症、フラッシュバックに襲われます。

覚醒剤特有の、体の下に虫が這っているように感じる這虫感覚(図4)、 そして幻覚(図5)、それから耐えるために彼はどうするか? なんとパパァーパパァーとサックス吹きまくるのです(図6)。もうわけわかんないよ。

そして宿敵が渋谷の極道の組長。
シャブを6日続けて不眠不休でビシバシ撃つようなラリパッパなんですが、 登場時からして「ヴーーッ 来た来た来たあ 上がってきたぞォ」(図7)ですよ。

で、組長そんなにシャブやってだいじょぶですか、と部下が健康を気遣っても「おう 北朝鮮製だがネタは最高だよ」などとトンチンカンな答えを。

そしてさらにカッ飛んだ主張が!(図8・9)シャブ中のヤクザといえども、 取り扱う商品には絶対の自信を持っている、という、心温まるんだかクルクルパーなんだかわからない主張です。

幹部連中と話してる時も幹部が皆サボテンに見えたりとか(図10)、お付き合いするのに苦労しそうですね。

もちろんこのマンガもドラッグをやりましょう、というのではなく、 麻薬はホントこわいです、と主張してるのですが、怖さをリアルに書くと中毒者がイカに狂ってるかを描くことになり、そこが本書最大の見所です。

例えば物語後半はシャブからMDMA(エクスタシー)の話になるのですが、 高校生が興味本位でやっちゃって「空も飛べるかも…」とご存知スピッツの名曲のフレーズを呟きながら、 高いところからダイブしてみる、などとチャレンジャーな部分を見してくれますし(図11)、エクスタシーきめながらセックスやりまくって挙句の果てに、 「馬鹿とは何よ!! 私たちは気づいたのよ ほかの国に軍隊送るよりセックスしてるほうがよほど人間として上だって!」(図12) と説得力ないチンカス意見を吐く馬鹿女も登場。


(図11)
飛んだら死ぬよ


(図12)
ウッドストックかよ

これだけでもうおなかいっぱいなのに、ラスト近くにはシンナー中毒もでてきて「黙秘権らァ れんゴシ呼べ!」とかつてないラリリ口調が(図13)。 いやあ、日本の若者は乱れてますなあ。おっかないよ。


(図14)
目に注射針、って死ぬほど物騒

さらに恐ろしいシャブ拷問、に至っては、純度の高い覚醒剤を瞳孔に注射するという、 コミック表現おそらく初の、ガタガタブルブルものの拷問がでてきました。

これ、出典どこなんだろう?やったことある人いるのかな?(図14・図15)。

まあ最後は主人公爆死、宿敵の組長蜂の巣、というまさに覚醒剤やめますか、それとも人生やめますか、というバッドエンド。
この本読んでそれでもドラッグやろうという方はまあいないだろうと思いますね。

とにかく傑作、全2冊というスパっと潔い短さもヒマをつぶすにもってこい。
他にもシャブネタだと唐沢俊一・なをき作「ぶんかの花園」にも爆笑のエピソード掲載されてますよ。
いずれも本店2にて取り扱いをしております。

余談ですが、東京都の覚醒剤防止キャンペーンというと「ダメ。ゼッタイ」が有名ですよね。ではシャブ極道の本場・大阪ではどうだったんでしょう?

10年くらい前、大阪府警が覚醒剤防止キャンペーンで使ったコピーは、 清原がバット振ってる写真で「覚醒剤打たずにホームラン打とう」。ありえない能天気さですね。

「ダメ。ゼッタイ」もそうですけど、これで一人でも「ヤベヤベ。覚醒剤やめよう」と身につまされた人がいんのか?
税金使ってるんだから結果も知りたいですよ! まあこのコピーも不評だったんですけど、 その意見の大多数は「あれでは清原がシャブやってるように見える」だったそうです。

コピーの内容の出来具合よりも「清原シャブ中かよ」というところにツッコミ入れるあたりが大阪ぽくて、何となくこのエピソード好きで忘れられません。

※この記事は2005年1月14日に掲載したものです。

(担当岩井)

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