岩井の本棚 「マンガけもの道」 第22回

スピリッツ2005年49号の「バンビーノ!」が何かおかしい


(図1)
「ベーネ!」は了解! の意味

漫画は雑誌に連載されているものを、何ヶ月か分かまとめ、単行本化するのが基本です。
ですが、雑誌はいずれ読み捨てられ、単行本は形となって残ります。
また雑誌をかわずに単行本で揃える方も比率的にはかなり高いです。
というわけで、雑誌掲載時の姿、というのをきちんと把握している方は実は案外いないのではないかとも感じたりします。

クリエイターである以上は後世に残るものはきちんとした形で、と思うのも当然ですし、 逆に締め切りという時間的な限界がきっちり示された上で行われる連載・・・ある意味でルーティンワーク、ライン作業では描けるスキル的限界がある、というのも分かります。
作家的には不本意な形でも、よほどでなければ雑誌には掲載されてしまうのです。

そのため多くの作家さんは単行本化するときに加筆したり修正したりします。
何しろこれ以上加筆修正する必要なんかないだろってくらいな完成度の「DEATH NOTE」ですら、 雑誌掲載時と単行本化されたときでは修正が施されているのが分かります。


(図2)
先輩にボコられるこのシーン、最高の出来具合です

ごく例外としては、雑誌の時にはある程度絵のクオリティの部分を捨てておいて、 単行本時に大量の書き直しをすることでお互いを補完する作家もいます。

たとえで出すのも恐縮するほど有名なのは「HUNTER×HUNTER」でしょうね。
雑誌掲載時には真っ白けのまるでアニメの絵コンテかと見まごうばかりの絵で、 しかも堂々と掲載されているのですが、単行本時にはきちんと描かれています。その差には驚くばかりです。

・・・とはいってもあの白い絵でも「載ってないよりはぜんぜんいい」と許せるのって「HUNTER×HUNTER」くらいしかないんですけどね・・・。

たぶん、ドラゴンボールやスラムダンクのように完全版をつくるとしたら「HUNTER×HUNTER」の場合は雑誌掲載時の完全収録のほうが価値があるのではないでしょうか。
「HUNTER×HUNTER」が掲載された号をすべて家にストックしておくのは無理がありますからね。
そのほうが絶対価値があります。たとえ白い絵でもね!

とここで話を変えるのですが、今号のスピリッツを見てびっくりしました。

っていってもウシジマくんでもないしハクバノ王子サマでもないですよ。何って「バンビーノ!」ですよ。


(図3)
デフォルト時


(図5)
ゆがみB 背後霊スーザン憑依時


(図6)
顔開きすぎ。セミナー顔


(図4)
ゆがみA 背後霊キャシー憑依時

「バンビーノ!」は一流イタリア料理店「バッカナーレ」で修業中の主人公が、 ほんとうのプロのコックやフロアスタッフの仕事振りを見て、未熟だった自分を悟り、 少しづつ成長していく物語。調理場を戦場に描き、言動もテンションも、 そして絵のアツさも青年誌の中でもかなり高い。プロの仕事って何でもそうだけれど厳しいけれど美しいよなあ、と思わずにはいられません。

この絵を見てください(図1・2)。
この書き込みこのテンションそして勢い。
思わず引き込まれてしまいます。絵の満足感でいったらおなか一杯です。

でも、この「バンビーノ!」毎週必ず載っているんじゃないんです。
隔週だったり、一ヶ月くらい休んだり。

まあそれに関していえば現在の青年誌の週刊連載って システム自体がもうなし崩しに「休載」を含まないと雑誌がまわらないくらいのレベルになっているワケだから (たとえばモーニングで「バガボンド」含めてまったく休載がない・・・ と仮定するとおそらく本誌のページ数にすべての作品が収まりきれません) 文句いうつもりもそんなにはないのですが、問題は別のところにありました。

1ページ目からふつうに読んでいって、うんうん、とうなづきつつ、ページをめくる指は早くなっていきます。そして15ページ目。

ハア〜〜〜〜〜ッッ!!!???
なんすかこの歪んだ絵は!!

そう、今週の「バンビーノ!」。
15ページを境に突然、絵がものすごいゆがんでんです。
陰影を強めにつけて太くて力強い筆タッチにするのを多用するせきやてつじ先生ですが、 もう最後はその太い線でもごまかせないほどのユガミっぷりです。

見てください、これ同じ号の同じ女の子、気の強いアスカちゃんなんですが、 ページを追うごとにみるみる顔が崩れていってます、こんなに崩れるなんて女はホント魔物ですね!(図3・4・5・6)


(図7)
とにかくコワイ、目が怖い

そしてトドメにはコレ。
「きれーーーばい・・・」(図7)

エエーーッ! そんな、バカな!! くずれてる! くずれてますよ!

ぼくこの「きれーばい」見て真っ先に思い出した類似サンプルは、これですよ(図8)。

(図8)
小室友里ってこんな顔だっけ?

これは「きれーばい」じゃないですよ! 怖い怖い、怖いですよ!
狂ってる。狂ってますよ??


(図9)
ポカーン

あと主人公までこんなボンヤリした顔に!(図9)
たかもちげんが描いたのかと思いましたよ! いやあ、あはは。

なにがあったのか、せきやてつじに?
15ページからのこのユガミ具合と、見たことねークズレっぷりは何故?

前後がキッチリと描かれているだけに15ページ以降のマッシロさが逆に目立ちます。
このページ、単行本では絶対に直してくるだろうからこそスピリッツ本誌にて是非ご確認ください!!

尋常じゃない「まにあわねえ!!」っぷりが味わえますから!

「バンビーノ!」「AV烈伝」は本店にて取り扱いしております。
「村西とおると高橋がなりのことを考えながら、イタリア料理食いてえな」とお考えの諸兄は是非本店へ!
※ ちなみにこれ(図8)はいま日本のマンガ描きの中でも、かーなーりー女性を描くのをニガテにしてると思われる、 比類ないヘタ萎え女性を描く井浦秀夫の描く美女です。

この井浦秀夫の「AV烈伝」はAV黎明期からセル勃興までの歴史と主要人物の珍エピソードを抑えており (その部分については東良美季氏の存在が大きいでしょう)、貴兄におすすめの好著です。

※この記事は2005年11月11日に掲載したものです。

(担当岩井)

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