岩井の本棚 「マンガけもの道」 第26回 |
好美のぼる「呪いシリーズ」後編 教育上よろしくない猫マンガ」
(図1)
化け猫に盲目少女、背景青空。最高のジャケ!
実家にいたときは毎日猫にかこまれて暮らしてました。
昼寝していると猫が背中に4匹くらい乗っていてうなされるとか、よそみしてる間に猫に夕飯のオカズ全部盗まれるとか、 背中に小便引っかけられるとか、仕返しに猫を自転車の荷台に入れて走り回るとか(絶対にまねしないで下さい)、 友達の飼ってた猫がノミだらけになったのでノミ取り要員として駆り出されたりとか、そういう子供時代を送ってきました。
猫は犬のように、何か仕事を遂行したりしない無生産なところがいいのですが、 いたってプライドが高く、寵愛を失ったり、傷つくと姿を消したりするほどナイーブです。
また長生きで知恵も高く、そのために猫は昔から人を呪うといわれてきました。好美のぼるの笠倉「呪いシリーズ」第2弾はそんな猫の話です。
タイトルは「呪いの盲猫」。
「呪いの学園」の巻末には次号は「呪いの猫眼」とあるのになぜタイトル変更されたんだろう? ・・・それも悪いほうに!!
ご丁寧にもうねこ、じゃなくてめくらねこ、とルビがついてます(図1)。
ストーリーはというと、生まれつき眼が見えないミツ子には不思議な秘密があった。 仲良くしている黒猫、クロと話が出来るのだ・・・。盲導犬なら聞いたことあるけれど、クロは盲導猫ですね。こんなのいたらぼく10万くらいなら出しますよ。
(図2)
クロは相場感覚抜群です
(図3)
意外とプレイボーイ
(図4)
クロから語られるラブストーリー
(図5)
ミヤーミヤーミヤー
(図7)
口が妙にかわいい
(図9)
3コマ目はアメリカンレスラーぽい顔
道案内はもちろんのこと、ひき肉が安いから買え(図2)、とか、自分の付き合ってるネコのことをのろけたりするほどです(図3)。
さすがにテレポーテーションできたり念力が使えるハイパー犬、ゼロ(「うしろの百太郎」登場)ほどではないですが、全国猫模試をしたら偏差値70以上マークできそうです。
なにしろクロは眼の見えないミツ子の代わりに映画を見に行き、そのストーリーを要約して伝えることが出来るほどです(図4)。
あまりにクロが有能すぎるせいか、もしくは手抜きなせいか、ほとんどのページをクロが飛び、ただ走る様ばかり描かれており、 実質5分もあれば一冊読み終えてしまうほど内容がスッカスカに・・・あわわ、スピーディな展開になってしまっているのが痛いですが。
(図6)
トラック野郎=ゴキ説
クロは俺に任せてくれといい調査を始める。クロえらい! やがて犯人を突き止めるクロ。相手はこんなヤツだった!(図6)
「おれはなァ トラック一台で日本中をゴキブリみたいにはいずってるんだ」
・・・いばってるのか? それとも自嘲? ぜんぜんわかりません。 ゴキブリみたいにはいずるトラックなんかみたことないよ? 車高低いなー。
トラック野郎から財布を盗むクロだが、石を当てられて死んでしまう!(図7)
かわいそうクロ! だけれどクロは死んでも霊となってミツ子を守る・・・シーンだけれどこれじゃ呪ってるようにしか見えない(図8)。
(図8)
非常に意味のない見開き
するとミツ子の顔が・・・(図9)。
「ガウー」
「な なッ なんだいこいつわ! ウェーッ」
「やったならやったと正直に言うのだ!」(図10・11)
(図10)
まあネコミミ少女っつったってリアルにやれば所詮こんなんですから
(図11)
「ガウーッ」「ウアー」
(図13)
めちゃくちゃ怖いコマ
(図14)
キンはなぜカタカナ?
ミツ子の顔がクロに!
顔だけ猫、っていってみればキティちゃんみたいになるはずなんだけれど。 おかしいな、ぜんぜんおどろおどろしいですね。サンリオ向きじゃないですね。
恐れるトラック野郎は自首することを誓って一件落着。
だけれど遂にクロの死を知るミツ子。クロは荼毘に付されるのでした。
(図12)
スクリーントーン手抜きせんで貼れ
ところが霊になったクロが調理主任が怪しい、とミツ子に。
ミツ子は「思ったことはすべて口に出しながら歩く、好美歩き」を実践しつつ家に帰るのですが(図12)、好美先生はこともなげに
「ブラン」(図13)
エエーーッツ!! おいおい、もう母親死なしちゃったよ!
泣き叫ぶミツ子だが、もう好美先生面倒くさくなっちゃってて、ワンピースのスクリーントーン、貼ったりはらなかったりで超テキトウ。
そこに悪人、調理主任・安田が登場!
母に振られた腹イセに「たっぷりタマゴ焼のざいりょうの中へ大腸キン入れてやったからな」(図14)。 いやー不衛生極まりないですね。なにせ5人も死ぬくらいだからなあ。ウンコ食っても5人も死なないと思うけれどな・・・。
(図15)
ネコには苗字はないよ
(図16)
ネコよりも熊ですね
(図17)
ネコの舌はこんな長くないですよ
一軒めの飲み屋では顔が猫に(図15)、
二軒めでは手が猫に(図16)、
3軒めでは舌が猫に(図17・18)!
猫の舌ってあんなナメクジみたいだったっけ??
ニョローって。 ちょっと楽しそうですね。
(図18)
ちょっと得意げ
いやけして笑わせよう喜ばせようとはしてないんですよ。
好美先生は本気で怖がらせようとしてます。
当の安田本人には自分が猫チャージされてるってわからないもんだから「何でオレが猫なんだッ!」と荒れるが、遂には尻尾や猫ヒゲが生える。
「猫だ猫のたたりだッ」と逃げる安田、しまいには意気消沈して
「猫なんか知らん むしろオレは猫はすきだァ」(図19)
なあんだ、好きなら別にいいんじゃない・・・と身勝手に思うまもなく、ミツ子が現れて安田の罪を暴く。
最初は「ヤカマシイヤカマシイ」と好美調カタカナ語で否定するものの(図20)、罪を認める。 ミツ子の母も祖母もクロも死に、ついに独りぼっちになって物語は終了。
とんだバッドエンドです。
(図19)
まったく意味のない2コマ
(図20)
カタカナにするだけで電波な感じがするから不思議
むしろ本当にひどいのはここからですから・・・。
作中、盲学校の生徒にイヤガラセをする中学生達と、ミツ子が喧嘩するシーンがあるのですが、これが掛け値なしにヒドい。
しょっぱなから中学生達はミツ子を囲み
「なにするのやめて」
「うるさい どメ○ラ」
と言い放ったかと思いきや、子供同士がなぜかヒガミっぽい税金論をわっさわさ口にするんですよ。
この部分の差別表現は79年当時でも、たぶんアウトです。
もちろんいまだったら商業出版であれば一行たりとも記せないし、内容を要約して表現するのもムリっぽいです。
当時なぜ許されたのかまったくわかりません。
「あなたたち盲学校の生徒をいつもいじめているらしいわね」
「ええいじめてやってるわッ」
「そりゃそうでしょう あんたたちメ○ラは税金で教育してもらってるんでしょ」
「わたしたちは税金を払ってるほうよ」
「こっちはね親が高いお金を出してわたしらを通学させてるのよ」
「(一行削除)」
「ちょっとくらいいびられたって何よ」
「あんたたち○○○○○○○○○○○○○○○○とくするのよ」
(図21)
本書最大の差別シーン
「ハイそりゃ税金のお世話になっているのはかんしゃしています」
「だからといって弱いものいじめをしていいとはかぎらないわ」
「わたしらの親たちも税金ははらってます」
「へェ〜ッそれじゃ私立の○○○学校に○○○○○○ッ!」
「(一行削除)」(図21)
言い返せないミツ子はリンチしようとする中学生達に身を差し出し、
「わたしの痛みだけで気がすむなら・・・どうぞ」
そこをクロの機転で助けられる・・・というシーンです。一行削除、はあまりにヒドい表現部分。伏字部分も同様です。
現在復刻本などで、今の世間では通らない放送禁止用語や表現があったとしても 「一部差別的な表現があるものの当時の時代背景を考慮し」とか 「一部ふさわしくない言葉を使っている部分がありますが作者には差別的意図がないものと」などといってそのまま掲載したりしてますが、 さすがに好美先生のこれはバリバリにヤバい気がする。
伏字を使って自分だけいいツラしたくもないんですが、そうとうに後味悪いです。
その「子供相手の本でそういう表現はないよね」を特に気にせずに、口に出してしまうのが好美先生のすごいところであり、 かつ、どうしようもなく醜いところでしょうか。30年のキャリアで単行本を百冊以上出しているという好美先生がメジャー誌でなぜ活躍できなかったか。
これだけじゃないと思うんですけど、先生の、無邪気なんだけれどぜんぜん場をわきまえない部分が影響したんでしょうかね。
(図22)
すごい柄の服
「呪いシリーズ」第3弾は「呪いの蛇笛」(図22)。
この作品は前2作に比べると、そういったモラルから逸脱したカンジは低い。
そのぶん印象も薄い作品です。しかしじゃあそういう好美節は出てこないのかというとそんなことはない。
メインのキャラクターの一人、蛇使いの名人がいきなりノートルダムのせむし男状態で、
「内藤安吉(別名コブ安)」(図23)
ちなみに本編で一度たりともこの別名で呼ばれることはありません。なんのためにわざわざコブ呼ばわりする必要があったのか謎です。
(図23)
ちなみにコブ安は超忠義者
(図26)
ナウシカみたいなシーンだけど感動ゼロ
(図27)
器用ですね
(図28)
ブボーブボー
「困ったときはこの笛を吹くのです」(図24)
(図24)
ちょっと欲しい
ともらった笛が曲者。
その笛はヘビの胴体で作った笛だったのです! ウエー、気持ち悪い・・・でこれをブボーブボーと吹くと、ヘビが吹き主を助けるためにジャンジャカ出てくるんですな(図25)。
(図25)
そういえば精子ぽい
(図29)
ブボーブボー
(図30)
ヘビ頭にタキシード
「エンブリヲ」(講談社/小田幸辰 イモムシうじゃうじゃマンガ)
「恐怖・ヒルが吸いつく」(ひばり書房/古賀新一 ヒルうじゃうじゃマンガ)
をいれると3大・ヒモ状動物リスペクトマンガだと思います。
成金一家がそろってヘビぎらいなため、みな大慌てで逃げるのですが、細長いせいかヘビというよりも豆モヤシみたいでニョロニョロ感が薄いのが残念です。
しかし水を飲もうとしたら蛇口からヘビが、ビールを注ごうとしたらビンからヘビが、 焼き鳥食べようとしたらヘビで、押入れあけたらヘビ、先生が黒板に筆記体で英文書いたらそれもヘビに見える、というクドさ(図26・27・28・29)。 病的ですね。
しまいには好美先生投げやりになってきて、この辺で終わりでいいだろ、とばかりに成金一家の顔をヘビ顔にしてあやまらせて終わり(図30)。 最後20ページくらいは人物の顔すごいテキトーでぜったい下書きしてません。
この「最後20ページくらいは猛烈に手抜き」(図31)は好美先生のどの作品にも共通して言えることで、 ラスト近辺は気の萎え方がモロに伝わってきて「オッ!きたきたラスト萎え」と笑みが自然と浮かぶほどです。
なんでか、って、好美先生は貸本時代からずっと単行本書き下ろし作家だったんです。
なので最初は書き込みや背景もちゃんとしてても、ラストはもう「早く終わりてえ」って気だけなんですよね。
しかもこの呪いシリーズ自体、第1弾がS54年5月で、2弾3弾がそれぞれその一ヵ月後ずつ、つまり3ヶ月で3冊という超短期スパンです。
まあそうなったら1冊あげるのが最優先で、ラストのでたらめさなんか二の次になるんでしょうなあ。
(図31)
まさにプロの技。究極の手抜き
好美先生と笠倉出版社はホントに少女達を怖がらせようと思ってこのシリーズをつくったのか? と好美先生存命中に訊いてみたかったです、マジで。
余談ですが、むかし猫を飼っていたときの話です。そのトラ猫は狩りがとてもうまく、スズメやネズミはもちろん、 ハトだとか近所の家が飼っているニワトリまで捕まえてくるほどなんですが、ある日なにかくわえて、トットトットと小走りで、 妙に眼をキラキラさせて手柄顔で家に帰ってきました。
家族の前で口からポイと離したそれは死んだヘビ。
さすがにあの時は家族中でギャー、ウアッと叫んでおどろいて、えらい騒ぎになってしまいました。
このトラ猫は顔が横に17センチもあるという近所いったいのボス猫で、縄張りが異常に広く1キロくらい離れたところでときおり見かけるほどだったのですが、 家の近所にヘビがいそうなところは皆無です。どこから取ってきたのか、ひょっとしたらどこかのペットなんじゃ、と家族中悩みました。
もうあんな凶悪なネコには出会えそうにありません。
好美のぼるのストレンジワールドに興味をもたれた方は、先駆者である唐沢俊一氏とソルボンヌK子女史の「UA!ライブラリー」シリーズ、 商業誌では「あっ!生命線が切れている」、またマンガ評論集「マンガ地獄変 Vol.1&3」が初めて入る方にはオススメです。
「ヒロコヒロコ」「かんがえこむのはおよし」「七変化ゴー!」でピンと来た方は曙時代の好美本を探しに札幌店へGOです!
※この記事は2006年4月2日に掲載したものです。
(担当岩井)