岩井の本棚 「マンガけもの道」 第9回

暗黒大陸その2 ガイズ・ラブの暗き闇


(図1)
これがホントの男祭り

ボーズラブとか耽美系、古くはやおいと呼ばれる、男×男どうしが、 真っ昼間から性行為にふけっている(いないのもある)様を描いたマンガたち…はメインターゲットが、当然女性です。
美に耽る、というとおり、そこに登場する男たちは、ショタであればかわいらしく、 少年であればカッコよく、青年であれば端整に描かれているのが普通ですが、 あくまで想像上の趣味ですから、リアルな部分は排除されているのが普通です。
ヘソ毛がワサワサ生えてたり、首筋におっきなイボがあったり、 しぜんに放屁したりするような男性が、BLコミックで描かれたことはないはずです。

ただここで現実との解離、が発生します。現実にも男×男の世界はもちろんあるわけですが、 ほとんどの男はヘソ毛がワサワサ生えてたりブーブー放屁したりするわけです。
BL的世界観では読者が当事者でないのでそこは無視してもよいのですが、 当事者が即読者である場合には、そこを美化してしまうと目的が消失してしまう場合が多々あります。
当事者の目的とはそれすなわち欲情であり興奮。男×男のコミックを、目的的に使用する場合においては、男性の魅力をリアルに描かないといけません。

そういった世界観をきちんとふまえた方たちが、男性に魅力を感じる男性のために作ったアンソロジー集が最近発売されました。
その名も「爆男」。バクダンと読みます。

で、まず最初に大前提で、マイノリティを差別したり馬鹿にしたりする意図はないことをここで触れておきます。
ただ…マンガ的な表現としてみると、それはこの「けもの道」で取り上げて相応な不思議な表現が山盛りなのです。


(図2)
居酒屋のオヤジ系


(図4)
警官。ポリス萌


(図6)
パン工場の後輩


(図8)
某き○がわ先生の作品より


(図9)
某き○がわ先生の作品より

この「爆男」。
背表紙に大きく「野郎系ラブコミック」と記されています。
絵はタンクトップ・短パンの筋肉むきむきの男ふたりが抱き合っている(図1)。
野郎系?
たしかにそういった言葉があるのは分かりますが、説明の難しい概念です。
センター試験で野郎系を40文字で説明せよ、と言う記述問が出たら、正答率超低いでしょうね。


(図3)
中年リーマン戦士


(図5)
警官×漁師は特濃すぎる


(図7)
柔道部員とふんどし。ある意味定番

映像での模範解答として、「爆男」に登場する、以下の6人と、他マンガの野郎系センスの登場人物を2人上げてみます(図2〜図9)。
共通項は短髪、ガタイが異常にいい、体毛が多い、眉が太い、というところでしょうか?
ちなみに女子向けのハードBLアンソロジー「筋肉男」シリーズだと、ここから短髪、と体毛、が削除されます。肝は短髪と体毛。覚えておいて下さい、センターで出ますよ。

だいたいカラーピンナップからしてこれです(図10)。
マイノリティの中のさらにマイノリティの性癖。
その答えがラグビー部と柔道部員。
野郎系の方が「GJ!! GJ!!」と泣き叫びながら親指を立てているのが目に浮かぶようです。

(図10)
足の長さなんて関係ないわ
こう並べてみると、世間的にはムサい男、親戚の叔母さんが見かねて見合い話のひとつも持ってくるようなおとこどもですが、 こういう男が、野郎系ホモのひとに好かれるポイントをおさえた人たち、ともいえるのです。
ではこんな人たちをどうしたい、何をされたい、のが彼らの欲求なのでしょうか? 爆男では、十名程の作家さんがそれに対してこう答えを出しています。

  • 危険地帯に行って男臭い過激派数名に拉致・緊縛され輪姦される。
  • サウナ初体験で、坊主頭の男臭い肥満体に犯される。
  • ボクシングでKOされた挙句、男臭い相手に犯される。
  • 男臭いおまわりと毛むくじゃらの漁師が、お互いの恋心に気づき和姦。
  • パン工場で働くかわいくて男臭い後輩に慕われて、和姦。
  • 自分の親父(ヒゲ)が男臭いオナニーしているのをつい見てしまう。
つくづくキーボードを打つ指が重くなりがちな、すごい表現ばかりです。
上の6項目を紙に書き写し、折りたたみ、冷暗所に一ヶ月保存した挙句もう一度開封したら、たぶん文字から陰毛生えてますよ。
腋臭もするね。ちなみに上記のストーリーは全て、主人公が受け側。掘られるほうです。攻め側はゼロ。

前回の暗黒大陸その1で紹介した人妻マンガの時にも触れたように、ルーティンやワンパターンこそエロ妄想では力を発揮するのです。
ということは上記のストーリーは「ああ、俺、こんな風にやられてみてえなあ」と野郎系の皆さんが妄想してやまない憧れのシチュエーションなのでしょうか?


(図11)
私はマゾのオカマです


(図14)
転び切支丹が一人


(図15)
これだけ攻められれば本望


(図12)
ガマン汁って一般語かよ


(図13)
臆面のない嘆願

ちなみにこの本の一枚看板、ジャンプで言うところのワンピースとかナルトに当たるのが田亀源五郎さんです。
既に何度もこういった野郎系のマゾをテーマにしたコミックスをいくつも発表しており、女性にもファンが多い、知るひとぞ知る実力派。
まんだらけでもかつて何回か紹介しています。

この田亀さんのマンガがすごい!
深夜のコンビニに女装して来店、コッソリといちもつを露出したところを店員に見つかり、 それをネタに輪姦される…という話ですが、絵の上手さも小道具の使い方も、手馴れていて読めます。
もっとも小道具の使い方、といっても図11のように、 乳首をクリップで挟んで生茶の2リットルボトルを吊り下げる、とか、そういうなんだか分からない方向で、なんですけどね。
キリンの広報のひとたちはこんなところに生茶を使われて、どう思ってるんだろう。
聞いて見たいですね。

あとこの舞台になっているコンビニ、実名でちゃってるんですよ。
ファ○マの広報のひとたちはこんな…(以下略)。
あまりに名シーンが多くて頭がクラクラします。
図12〜15のようなシーンをもっと見たい方は是非「爆男」をご購入ください。損はさせませんよ?


(図16)
眉だけはダメ!

それにしても価値観の優先順が理解できないです。
例えばペットボトルをぶち込まれるたり、3人に小便飲まされる、ベルトでひっぱたかれる、下腹部を剃毛されるのはOKなのに、 眉と髪を剃ろうとすると「なんでもするからそれだけは許して…!」と猛反発(図16)。
野郎の誇りとして、そこだけは譲れないです!! というのは分かるのですが、眉そるか、 男3人にゲイ私刑されるか、という選択肢だったら僕はやっぱし眉、そるかなあ。

田亀さんのマンガは発行部数少ないのが難点ですが、短編でしたら前述「筋肉男」でも読めますよ。本店に常備しておりますので、よろしく。

ちなみにタイトルにある「ガイズ・ラブ」は、 某ライブ館のスタッフに爆男を見せ「こういうのを総称してなんて呼ぶの?」と聞いた所「それですか。ガイズラブです」とよどみなく答えてくれました。
ガイズラブ。言いえて妙です。

※この記事は2004年11月17日に掲載したものです。

(担当岩井)

お問い合わせ (営業時間:12:00〜20:00)

まんだらけ中野店(詳しい店舗地図はこちら)
〒164-0001 東京都中野区中野5-52-15
TEL:03-3228-0007 / e-mail:nakano@mandarake.co.jp