岩井の本棚 「マンガけもの道」 第5回 |
いたずら−次郎の場合−
商業誌は最大公約数的には、売って利益を上げることが目的になるのですが、利益はこのさい度外視するから、読んでもらいたい、という種類の本があります。特に現在は読み手は減少傾向にあるのに、書き手はいぜん増加傾向で、自分の本を自費を投じて出版したい、という人はあとを立ちません。
それ以外でも、何かを知ってもらいたくて出す本・・・があります。
啓蒙系と呼ばれるもので、多くは何らかの団体が活動内容を知ってもらいたくて出すもの。
最も多いのは宗教団体ですが、、原発会社、競艇、企業、官庁、地方自治体と、 「とりあえずなにをしている所か、を知ってもらいたい」というPRのためにつくられるのです。
当然内容はヨイショというか、批判のないまなざしオンリーで描かれがちなものになります。
たとえば僕が以前読んだ原発啓蒙マンガは、原発はめっちゃ安全、発電量はいずれ足りなくなる、 原油は枯渇する・・・という、ニュートラルな立場の人間でさえ 「原子力でガンガン発電しなきゃヤベェーよ」などと大それた思考をしてしまうようになる、洗脳力の高いものでした。
(図1)
初期の宮下あきら風
出版は「心とからだ相談センター」なる所。
なんでも電話相談室で子供の性の悩みを解消すべく活動している団体だそうですが、 この運動を世間に認知してもらい、運動へのバックアップを行ってもらうべくこの本を出版したとあります。
ストーリーは、昭和54年、大人の女性には興味を持てず、 幼い少女にいたずらを繰り返すようになった「次郎」という愚連隊の少年(図1)の心の闇を解きほぐすように進んでいきます。
まあ、話としては「母親に愛情を注がれないまま育ち、やがて母親の性交の場面を見て大人の女性に嫌悪感を抱くようになった」みたいなカンジ。
ありがちですよね。
しかしこの本が面白いのは、別の部分です。
こんな悩みを持った少年たちが、我々のもとに毎日何件も電話してきているんです。
こんな問題を放っておいていいのか! というモチベーションが空回りしてて、なんだかよく分からない表現が目白押しなんですよ。以下抜粋。
(図2)
りんごかよ
セリフがいいんですよ。
「なんだこりゃあ、フヤフヤでベタベタだ。俺が求めているのはこんなんじゃない! こんな汚らしい・・・! 」
セリフもいいけど、女性器のイメージが半分に割ったりんご!
ええーっ、真崎守時代のイメージかよって思うと萎える!萎える!萎えるです!!!
(図3)
めすぶた
「めすぶた」はひらがなで書いちゃ雰囲気出ません。本当にぶたっぽいのでだめですよ。
(図5)
ジジイ評論家ぽい
(図4)
韓国純愛ドラマ風、でもいたずら
ふつう少女にいたずらしたら犯罪ですよ。
なのに背景は銀河鉄道999みたいにメルヘン夜空。
臆面もない少女のほめかた、なんかくすぐったい、気持ち悪いです(図5)。
語尾の「え」がオヤジっぽい。
(図6)
いや、恥ずかしいです
おまえ、少しはためらえよって言いたくなるくらい直球。
インハイ高めですね。
オナニーは恥ずかしくなくても、年配の人からオナニー経験について語れ、って言われるのはイヤだ!
この物語のふしぎな所は、こういう風に幼少時にトラウマを持った少年はその性衝動をまっとうな方向に見出せないのです・・・ということを主張するあまり、 「こんなトラウマがあるんだったら、少女に手を出すのも仕方ないよね」などと肯定的に捉えてしまいがちな雰囲気があることです。
(図7)
悟ってます
「ごめんよぼくは変態なんだ・・・」次郎が悟りきった顔してるのもムカつきます。
(図8)
絵柄あずまんが入ってる?
(図9)
命令口調バリバリ
実は、このマンガは次郎のトラウマのみ表現されてて、解決法がちっともしるされてないんですよ。
こんなトラウマ持った人間にどう対処するか、大人の女性に興味がないならそれはどうしたらよいのか、がぜんぜんわからないまま。
僕も読んでみて、ラスト次郎が捕まって「タイホされた、よかった、解決だ」と思っちゃったんですが、それはなーんにも解決になってません。
150ページ語られて、結論が「隔離せよ」じゃね・・・。
ちなみにこの本、シリーズ名が「笑えないマンガ!」というのですが、そんなことない。超笑えますよ。
一読後は、昭和54年には、こんなにも性に対して不器用な少年がいたんだなあと思いましたが、そして23年後の今日はどうなのでしょうか。
極端な例ですが、童貞マンガ専門家・にったじゅん先生はこう表現しています。
たまった性欲のはけ口に悩む少年をカウンセリングする保険医と担任、という設定で、こんなノーテンキなネームを炸裂させています(「マジ童貞!?」図8・9)。
「山口くんパンツを脱ぎなさい」!
ここまで来ると恥ずかしくなんてない、むしろカッコいい!!!
アメリカンにも程がある!!
にったじゅん先生は世界に通用するといっていいです。
※この記事は2004年10月22日に掲載したものです。
(担当岩井)