岩井の本棚 「本店レポート」 第8回 |
望月あきらが描くパリ
望月あきら、という作家をご存知でしょうか?けして大作家ではないのですがキャリア長く、 貸本時代から活躍し、いまでも今でもマンガ専門学校の講師をしているそうですから、かなりのキャリアの持ち主です。
ですが皆が知ってる作品、というと限られてきます。
以下、思い出すままどれくらいまでタイトルが出てくるか、でマンガ読みのランクが問われると思います。
(図4)
(図5)
(図6)
(図7)
「ゆうひが丘の総理大臣」
・・・まではけっこう皆が知ってるラインですね。
「カリュウド」
「ローティンブルース」
・・・というあたりになるとタイトルだけ知ってる、という方ばかりになります。
「すきすきビッキ先生」
「ウンチくん」
「ドカドカドッカン先生」
・・・なんかだとビンテージ好きにはおなじみのタイトルかもしれません。
ですが「ジュトン」を思い出せる人はなかなかいないはず。それくらいドマイナーな作品です。
(図1)
(図2)
(図3)
望月あきらというと学園生活とか青春とか、ドタバタギャグとか色々な要素がありますが、けして洗練された印象ではなく、むしろ垢抜けない作風だったという印象です。
それでも「ゆうひが丘の〜」なんかはそれが逆に魅力で、時代錯誤な型破り教師のソーリが面白く描かれてたとおもうんですが、でもやっぱ「望月あきらがパリの上流社会の話を描く」というストーリーを聞くと、 なんだかずいぶんと無理をしてるなあ、と思わざるをえません。これは最近でいうならヤンジャンの「カウンタック」ばりのムチャっぷりです。
なにしろパリが舞台で、上流社会のロンシャン家にもぐりこみ、乗っ取りをたくらむ日本人母子、 という設定もムリあるのに、それを取り巻く連中が従来の望月あきら的メンツ(図1・2・3)。
エレキを弾くと「ババババァーン ズズズズゥーン」って音が出るし(図4)ディスコだと「ズンバスバババ」って音楽かかってる(図5)。
バスケの試合中には「わあーわあーわあー」って歓声はいるし(図6)。
まあオールドタイプな表現多いす。
で、そんな人の描くパリはやっぱりスカスカで、一目見て「こりゃ外人だよね」って人がほとんど登場しない。
どーみてもコテコテの日本人にしか見えないのに「ミッキー」を名乗るミッキー安川くらい、日本人然としてます。
パリの物語なのにやたらと日本人が多いのもなんだかわけがわからない。
なんかカラテしてるシーンも出てくるし(図7)。
これだったら手っ取り早く日本の上流家庭を乗っ取る話にした方がよかったんじゃないかと思うくらいですよ。
でこの話おそらく打ち切られたんですかね、ライバルの本家の息子が最後主人公を落としいれようとして失敗して終る、 と話が尻切れトンボでいきなりおわってしまうんです。
話も家を乗っ取るための策略が多いからかスカッともしない展開で、 人の下心ばかりが出てきて読んでてなんか暗くなります。
こりや打ち切られても仕方ないよね、と思うほかありません。
そんな「ジュトン」全3巻、当時から浮いてたせいか望月あきらの中ではかなり見かけない部類です。
ぼくも1巻しか見かけたことがなく、2巻以降を今まで読んだことなかったので、3巻揃ってやっとラストまで読めました。
値段的には全3巻630円、と超お手ごろ価格。リアルに古本屋を回るなら、手に入れるためにかなり歩かんといけないはず。
この年代のチャンピオン集めてる人は押えておいたほうが無難では。
余談ですがこの作品以降、徐々に表舞台からフェードアウトした望月あきらは、 なんか企業PRマンガとか、宗教PRマンガとか、仏教入門マンガとか、 資格のとり方のマンガとか「文章だったら読まないけんどもマンガだったら読んでみっか」 となんだか対象者を小バカにしたようなジャンルに手を染め始め、しまいにはコスモメイトかなんかの布教マンガまで描いてました。
割と好きだったマンガ家がどんどんヘンな物描き出すのは見てて辛いですね。
※この記事は2005年2月26日に掲載したものです。
(担当岩井)