岩井の本棚 「本店レポート」 第22回

みなさん、ポリスってほんとうに素晴らしいものですね

ちょっと前の話にはなっちゃいますが、水野晴郎さんがなくなりましたね。

映画評論家というとうるさ方に囲まれているせいかとかく毀誉褒貶にさらされやすい職種です。
だけど水野さんは満面の笑みとキャラクターの特殊さで、
どっちかというと「とにかくファンキーな人で、しかも映画解説もする人」のような、
コ難しい部分からはいい意味でオミソというか、グレーゾーンで過ごせた稀有な方です。

そんな人だから水野さん監督のシベ超について批判するのはヤボだし、
ムッチリした肉感的なバディーに警察マニア、高齢にも関わらず脂ぎったツヤツヤの頬。
ツッコミどころだらけなのに憎めない存在でした。

昔、なんだったかな、芸能人ドッキリみたいなバラエティー番組で、水野晴郎が矢追純一をダマす! という企画がありました。
矢追さんがいるところに宇宙人があらわれ、矢追さんにやっぱり宇宙人いましたね!
とダマそうとするんですが「あれは違いますよ」とまるで信じない矢追氏。
それはいいんですが、ドッキリが失敗した時の水野晴郎の驚愕顔が最高で
「ええ〜〜っ、なんで〜〜〜っ!?」といわんばかりに悲しげで、
眉毛はハの字、口をポカーンとあけ、心底ガッカリしてるところが大写しに。
ああ、この人ってホントは子供みたいに無邪気なんだろうなあ・・・と思ったのを覚えてます。

だいたい金曜ロードショーの解説もヘンです。
ときどきポリス制服に身を包んだりしますよね。解説のあと。
映画が「ポリスアカデミー」だとか「ダーティハリー」だったら分かるよ。 でもそんなんでは全然ない。
まるで関連がないのに、なぜ警察コーナーが必要なのか。
そんでアメリカの警察の話を延々とする。
あとときどき日曜の3時とか4時とかの一週間で思考回路がもっともボンヤリした時間帯に
「水野晴郎がアメリカの警察に体験入隊!」みたいな2時間番組が放映されたりもしてました。

あれはなんだったんでしょうか。
どこに需要があったんでしょうか。
なんで世間はあれに対し抗議しなかったんでしょうか。
ポリスの話なんかどうでもいいから、そのぶん映画をノーカットで放映しろ!という方が自然です。
しかしそうした話も聞かない。何故か? それは無邪気だからですよ。悪意がないからですよ。
制帽をかぶりダビデの星型のポリスバッジを誇らしげに胸につけてニッコニコしてパトカーに息荒く乗り込む水野氏をみてると
批判しようとは思わなくなります、そりゃ。

また繰り返し水野氏がコスプレして登場しつづけることで、
ヒゲや眉の濃い男性からの特殊な需要が生まれてるだろうし、
そういった意味では私的コスプレを初めて商売に持ち込めた人間かもしれません。
まあそれ以前にもアイドルがテニスルックになったりスチュワーデスになったりして
女子や男子はホワホワしてたりしましたが、あれはあくまで押し着せ。
本人が着たいわけじゃないんです。

比べて水野氏は
「本編に関係ねえ? オレが着たいから着るんだよ! そして全国に見せたいんだよ! カリフォルニアに行こうぜ!!」
という満ち満ちたオレオレさ。
日常なんて関係ナイ、着たいから着るんだ! というレイヤー的思想は水野氏が発祥です。
元祖コスプレイヤーといってよいでしょう。

そんな水野氏のポリスワークを集めてみました。のっけはコレです。



「ワイルドムック11 アメリカンポリス」

最高のジャケですね。胸焼けしそうです。
アメリカンポリスから連想される正義感、ワイルドさ、そして豪快でタフガイなイメージをひと目であらわせるのは何か。
それがこのマクドナルドバカ食いジャケなのです。

おまえビッグマックいくつ食ってんだとか、ポテト全部ケースから取り出す必要あるのかとか、
食いかけ1個あるのに別のを食い始めるってどういう神経だとか、
ツッコミたいとこは三田の二郎の(鍋)ほどあるのですが、
僕的には「いくら警官だからってポテトの上に直接警棒置くってアリなのか」という部分がヒットでした。
警棒、油でテカテカしてると思います。

これを見て「演出じゃねえか」などといわないで下さい!
アメリカンポリスとは何なのか、どういうジャケだったらポリス好きがソソられるのかを考えたらこうなったのです。
そしてそれは意外にも、レイバンをかけヒゲを蓄えハーレーを乗り回すようなワイルドなポリスではなく、
野暮ったい内勤系妻帯ポリスがパトロールもそっちのけでバカ喰いする姿だったのです。
「その選考が偏ってるんだよ!」といいたいのももっともですが、ジャケ右隅を見れば全ての疑問が氷解するはずです。
「■監修 水野晴郎」
なるほど、水野晴郎が選んだなら、表紙はこうなるかもしれません。
こうくるに違いありません。万人を納得させる監修者の名前です。



内容はさすがに濃く、ポリスの一日、装備、訓練、「スタスキー&ハッチ」などポリスものの紹介、
水野晴郎ポリスを語る、はては楳図かずおがかつて組んでいたカズ&スーパーポリスというバンドの紹介まで。
全ページ、ポリス、ポリス、ポリスです。胸焼けしそうなほどポリスでいっぱいです。



「わが応援歌」「世界の警察」

水野氏がではなぜ警察マニアになったのかというとテレビの取材で警視庁の機動隊の仕事ぶりに感銘をうけたからです。
その後は警察に自ら飛び込んでいき、体験入署や取材、
またオブザーバーのような形で海外の警察にまで触れていくことになったわけですが、
本を読むとかなりの没頭振りで、夜勤パトロールや交番勤務まで共にしています。

何故一民間人がここまで警察のバックアップを受けることができたのかというと、やはりこれはお互いの利益が合致したからでしょう。 とかく警察が非難されていたこの時代、警察のイメージアップを自ら行いたいといってくれる稀有な芸能人はほとんどいなかったわけです。
そんな憎まれ役の警察にひたすらエールをおくるのが「わが応援歌」。

警察官は尊い、立派だ、がんばっている、彼らがいないと社会が成り立たない、
警視庁は最高の組織だ、巡査の大半は滅私奉公の鑑だ・・・と全ページ愛に満ちています。
そりゃ体験勤務してるんだから悪いところは見せないだろうさと考えるのはうがった考えで、
水野氏と警察の相思相愛ぶり、過剰なまでの愛を素直に読み取るのが正しい読み方でしょう。
冒頭警視庁副総監の前書きで、
「水野晴郎さんの顔は、いつもにこにこである。だが、その笑いは、ただの笑いではない。内に闘志、情熱を秘めた笑いである」
とあります。まあ、
「それ「だけ」の笑みではないよね?」
とも思うのですが。

「世界の警察」はそれからかなり後になって出た本ですが、
前書きに「これは私にとって11冊目の警察関係の本である」とあり、ビックリ。
中を読むとアメリカどころかデンマーク、ドイツ、ベルギーやオランダ、はてはルクセンブルグまで体験勤務してるのがわかります。

これは警察マニアとかの域を越えており、この当時は警察研究者といえるレベルだと思います。
巻末には対談がありますが、警察の中の人と「ユーゴの警察」について話し合ったり、対談自体が世離れしています。
一般人にはどこに感心するのかポイントがまるで理解できません。

しかし「制服大好き!」な水野氏らしく、必ずどこの警察にいっても、
きちんと制服を着用してりりしい写真を何枚も残しているのもほほえましいですな。

「わが応援歌」1050円、「世界の警察」630円。



この他にもKKワールドフォトプレスワイルドムックシリーズの
「パトカー図鑑」
「THE POLICE 」
があります。
いずれも大きく「監修 水野晴郎」と入っておりマニアが「水野監修なら安心だ」と感じるだろう信頼感の高さが伺えます。

KKワールドフォトプレスは「コンバットマガジン」「モノマガジン」の発行元。
パトカー、ミリタリー、ハーレー、革ジャン、レイバン、やたらピカピカなリボルバーの拳銃、そして肉厚な水野氏の笑顔・・・。
まさにマッチョ、まさにマッチョテイストですね。

おまわりを見ると勃つ人、パトカーを見ると濡れる人、
おまわりに不審尋問されたいがために自転車のライトをつけずにフラフラする人には必読の書です・・・ってアレ、
水野氏追悼のはずだったのになんか違うなコレ・・・。
※この記事は2008年8月5日に掲載したものです。

(担当 岩井)

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