【まんだらけトピックス】本・まんが・コミック・TOY・同人誌の専門店

現在ジャンプコミックス「バクマン。」がアニメ化されたり、永井豪先生が「激マン！」にて自分史をコミカライズしたりと、漫画家自身、あるいは漫画というもの自体をネタにした漫画は現在も絶えることなく数多く発表されています。

そういった作品群の原点のひとつとして、藤子不二雄A先生の「まんが道」が大きく影響を及ぼしているのは疑いのないところです。
「まんが道」は、藤子先生の青春記であるとともに、戦後漫画界の黎明期を描いた作品にもなっていますが、あまりにも「美しいよ（byいしかわじゅん先生談、BSマンガ夜話にて）」ために、まんが道がフィクションであることを忘れて、作中の全てが本当にあったことのように錯覚してしまいます。

もちろんまんが道は『良く出来たフィクション』にすぎず、事実を元にしていたとしても、都合の良い部分を取捨選択したり、あるいは意図的に時系列を無視したりしていることが多くあります。言い換えれば、まんが道にはフィクションであることを忘れさせるだけのパワーがあるということですが。

「まんが道」で意図的に描かれなかったことの一つとしては、森安なおや先生の無頼っぷり、ということになると思います。もちろんこれはまんが道の主人公が、藤子不二雄先生であることを考えれば当然の話です。
しかし、まんが道のファンであればあるほど、大人になってから知る「トキワ荘グループ」の詳細はいささか衝撃的でもあります。

その衝撃の頂点のひとつが、1981年に放送されたNHKで放送された「NHK特集・わが青春のトキワ荘」です。担当はこの番組をNHKアーカイブスで数年前にたまたま見たのですが、小学生以来のまんが道ファンとしての率直は感想は『こどもの頃に見なくて良かった』でした。
個人的な感想をいえば、この番組の衝撃ポイントは二つ。一つは番組内に多く登場した森安なおや先生の（当時の）現状。ただし、これに関しては、失礼な話ですが、森安先生が漫画家として『売れていない』状況を考えれば、ある程度予想可能なものでした。
もう一つの衝撃は、寺田ヒロオ先生のインタビューでしょう。TV番組であるこ
との演出などをさっぴいても、画面にはトキワ荘の「テラさん」は存在せず、商業主義に走った週刊少年漫画に嫌悪を示し、かつての仲間たちのことについてもそっけなく語る寺田先生の姿がありました。正直、登場の際庭でバットで素振りをしているシーンなどトラウマものです。

前置きが非常に長くなりましたが、現在いわゆる「トキワ荘時代」を語った本は現在多く出版されつつあります。今回紹介する「「トキワ荘」無頼派―漫画家・森安なおや伝」は、まさにその中でも森安先生に焦点を当てた本になります。

この本で初めて知る、ということも多い内容ですので、詳細はもちろんここでは語りませんが、現在漫画家志望、という人がこの本を読んだらどういう感想を抱くのだろいう、というのは非常に興味深い話です。

担当は20数年来の「まんが道」ファンですし、人生で読んだマンガでもトップクラスだと確信しています。しかし、非常に意地の悪い見方をすれば、世間的な意味での成功を収めた側からの視点の話であることは間違いありません。
また、現在ヒット中の「バクマン。」の主人公、サイコーを漫画家たらんと突き動かしているものは、マンガを描くこと自身というよりも、平凡な人生を送りたくないという衝動と、好きな女の子と添い遂げたいという欲求、つまりは「成功欲」が原点となっています。

それが良い悪い、という話ではありませんし、また実際身近に森安先生的キャラがいたらたまったもんじゃないと思います。トキワ荘にて一時期同居させられていた鈴木伸一先生には同情を禁じえません。

この本に描かれている森安なおやという人物の生き方は、郷愁や懐かしさという部分からもはみ出しています。同時代に生きた人たちから見ても十分規格外だったのですから、現代に生きる僕たちからすれば容易に理解できるはずもありません。

しかしながら、こういう本が発売されたことは、本当に嬉しく、ありがたいことです。先の遠くない将来、戦後マンガ史はしっかりとした学問になると思います。
それに向けて、もっともっと戦後もマンガ・漫画家にスポットを当てた本が出ることを期待します。

余談ですが、まんが道ファンの見果てぬ夢の一つは、十年ほど前に『伊集院光深夜のバカ力』に安孫子先生が出演された時に伊集院が言った「藤本先生の描いたまんが道が読みたかった」、これに尽きますね…。

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(担当有冨)