妖怪画集

「妖怪は存在するかって？
ズヰブンと野暮ったいこと訊くぢゃないか、そんなこと云ったら「存在とは何か、非存在とは何か」から議論しなきゃならなくなるぜ。
今、そんな時間はないから代はりにこんなハナシを披露しよう。 モウ、十年以上前のことになるけれど、ぼかァ洛北に行ったんだな。 旅情溢れる「叡電」に乗ってね。 目指すは最高位の龍神がお祀りされてゐるといふ貴船神社。
何月だったかは忘れたけれど冬だったんだらう、境内には雪が積もってゐたよ。 奥宮の拝殿の大前に立って、さァお参りしようといふことで鈴をガラガラと鳴らしたとたん、目の前に大きななにものかが「ズドン!」と落ちたんだ。
吃驚したね。 モチロン、それは拝殿の屋根に積もった雪が、鈴を鳴らしたことによって落ちたといふことなんだが、僕はこれは「おとろし(画像参照)」だと即座に直感した。 いや、「おとろし」の正体が雪だといふのではないよ。
『昔の人が鳥居から雪が落ちる音を聞いて「おとろし」といふ妖怪を想像したのであらう』みたいな、明治以降の合理主義的知識人が云ひさうなクソつまらないことを云ひたいんぢゃない。さうぢゃない。
さうではなくて、あれはやっぱり「おとろし」なんだな。
僕の俗眼では雪にしか見えなかったが、あの慄然とするやうな気配、タイミング、あれはやっぱりこの世ならざるものの仕業に違ひない、と僕は感じたのだ。
つまりは、さういふことです」