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幻の漫画少年 全リスト

文・相澤亮一

「漫画少年」と私(9)
昭和29年十月号の「漫画少年」に、「日本の児童漫画研究会」発足と会誌発行のお知らせが載っているので、二回にわたり「漫画研究」にふれてみたい。

「漫画少年」に掲載されていた「ジャングル大帝」は、昭和29年四月で終わり、それ以降、私は漫画から距離をおいていた。
しかし、現在手もとに「漫画研究」が五冊あり、多分、何らかの形で漫画との接触があったのだろうと思う。

「漫画研究」発行のニュースを何かの形で掴み、送本してもらったのではないか。
発行所は三号まで学童社となっており、私の高校二年生の時のことである。

まちにまった「日本児童漫画研究会」十月より発足、みなさんのまちにまった−児童漫画を志す人たちをむすぶ会−(日本児童漫画研究会)が誕生しました。
この会を作った第一の理由は、全国で漫画愛好家のみなさんからの熱心な希望でもあり、また、最近めざましい活躍をされている各地の漫画グループを一つにむすんで、 親しく交際できる会にしたいとも考えたからであります。第二の理由は、皆さんの漫画にたいする知識です。

投書漫画やグループの会誌に掲載されている漫画に、まちがった漫画を描いている人が非常に多いということです。
これは戦後、絵とふきだしがいてあれば漫画であるとして、ひどい本がたくさん出ました。その影響もあるのだろうと思いますが、 これではせっかくの力のある人も成長しません。なんとかして皆さんに本当の漫画を理解していただきたいというのが、この会を作る大きな希望なのです。(以下略)

■「漫画研究」創刊号の言葉
日本児童漫画研究会会長 加藤宏泰『現在ほど漫画が児童雑誌の重要な部分を占めている時代はありません。
しかしその反面、本当に読者のたのしい夢を育ててくれる漫画は割合に少ないというのが、児童漫画界の実情です。

「日本児童漫画研究会」は、今よりももっと明るいたのしい漫画を描いてくれる人、そしてそれを理解してくれる人が、たくさん育ってくれることを期待して生まれた研究会です。
諸君と一緒に漫画の本質を研究し討論し合って、児童漫画の健全な発達に少しでも貢献するように努力して行こうではありませんか。

成長するということは批評することでもあります。
たくさんの雑誌に無数に掲載されている漫画について、厳正な批評を加えながら、どれが本物であるか、どれが将来性があるか、 これからの漫画はどうあるべきかということを見極める目を養っていきたい、こんなこともこの研究会の大切な研究課題であります。(以下略)』

■「漫画研究」の発刊を祝う
東京児童漫画研究会会長 島田啓三
『「日本児童漫画研究会」が生まれた。出来なければならんものが出来た。・・・・・
児童漫画というものは決して生やさしいものじゃないということを深く心に刻み込んで頂きたい。大根やゴボウみたいに種をまけば必ず出来るというものじゃなく、努力を重ねて自分が新しい種を発見することだ。現在ヒョロヒョロと生えた大根マンガのいかに多いことか。少なくとも諸君だけは、児童マンガの本質というものをしっかりつかんで勉強してくれたまえ。・・・・・児童漫画の対象は、あくまで児童で決して大人ではないこと、そのため児童漫画とはっきりことわった研究会なのだから。・・・・・「日本児童漫画研究会」の誕生をお祝いする。』

■「最近の漫画の傾向について」馬場のぼる
当時の児童漫画を取り上げ、その根本問題から、表現方法にいたるまでを真剣に追求している。時代をせおう人達が本当の漫画を理解する手引きである。

■「単行本と雑誌の漫画」 手塚治虫
単行本の世界から雑誌界にはいり、人気の焦点にたつ手塚先生が、その尊い経験をとおして、単行本の漫画と雑誌の漫画の違いについて、解剖のメスをむけている。

■「漫画映画について」 古沢日出夫
終戦後漫画映画界にはいり、なおもたゆまぬ努力を続けている先生が、漫画映画を作る課程について述べている。

■「漫画ストーリーの組み立て方」 うしおそうじ
東宝の効果部にいた時、シナリオの研究をしたそうです。「長編の漫画物語を作る時には、「バンビ」みたいな詩情のあるものにするか、など、筋金がとおった、読者に感銘を与えるものを考え、テーマが決まったら、表現形式をきめ、主人公や脇役などのスターをまとめ、その性格が一目でわかるようにかきわけることを工夫する」と述べている。

■「新人漫画家に望む」 講談社 顧問 加藤謙一
『日本画や西洋画を教える学校や画塾は昔からあったが、漫画を教える学校は無い。昔も今もない。

それでいて日本には漫画家が無数にいる。これらの漫画家はいったいどこで漫画の勉強をしたのであろうか。・・・・・
漫画の学校が無かったからみんな独学だった。はじめは見よう見まねで、自分の好きな人の漫画を見ならったりなどして、 誰に教えてもらうということもなく、こつこつ独りで勉強をつづけた人ばかりと言いってもいいだろう。

その中に地方の新聞とか、子どもの雑誌とかに投書する。
はじめから入選するのはまれで、何べんも何十ぺんもやっている中にやっと入選する。

その時のうれしさというものは忘れられない。一度入選すると、人によっては続いて入選するようになり、 それからはげみがついて、いよいようまくなり、いつの間にか半人前の漫画家に成長する。

この投書時代というのが、早くいえば漫画の学校のようなものであった。
始めて入選するということは、入学試験に合格したようなものである。
こうして入学試験はやっとパスしたが、つづいて入選する人というのはめったにない。

そこで投書家は、これでもかこれでもかとぶつかって来る。これがえらい勉強になるのであるが、なかなかつらい勉強でもある。
このつらい勉強を通りこした人だけが、児童漫画家の先生として活躍しておられるのである。
将来漫画家になろうとする人には、どうしたって通らねばならぬ重要なコースである。

ところが、この度「日本児童漫画研究会」という会が出来て、児童漫画に関する機関誌が発行されるというのだが、 なぜもっと早くできなかったと思うくらいである。

早くといえば、将来漫画家になろうとする人のための教科書が出来たようなものである。
この教科書さえあれば、何がなんだかわからずに手さぐりで勉強しなければならぬ不便がなくなる。

昔、投書家としての苦しみをなめて来た児童漫画の先生方が、自分の昔をふり返りながら、 児童漫画についての急所をあれこれと教えてくれるというのだから、こんなありがたいことはないではないか。

この研究会のグループからたくさんのすぐれた漫画家があらわれたら、日本のこども達は一層幸せになるだろう。諸君の成功を切に祈るものである。』

他に
  • 「漫画学校」松井利一 昭和26年頃に「「漫画少年」に連載したのを、新しく編集し直したもの。
  • 「漫画ニュース」
  • 「投書漫画家の生活と意見」
  • 「漫画をかく心」はがまさお 漫画をかく心は”人を喜ばせる”という心から始まる。
  • 「新人紹介ライムライト」では新人漫画家寺田ヒロオを紹介している。
  • 「生活漫画の視察」
  • 漫画の題名のつけ方」
  • 「漫画映画の紹介」
  • 「わが投書時代」では、手塚、馬場、うしおの三先生の苦心談
  • 「漫画望遠鏡」ではベタマンとラインマン、カンズメ、アシスタントなどの語句の解説
  • 「ぼくらの声」
  • 「ディズニースタイルについて」おくむらのぞむ
  • 「手塚先生の助手を求む」
  • 「読者の投書漫画えんま帖
  • 「一駒漫画」指導馬場のぼる等が掲載されている。
つづいて「漫画研究」の第二号を紹介する。

■「若き漫画家のために」
東京児童漫画会会長 島田啓三
『児童漫画にとって、教科書が主食とたとえれば、雑誌はその副食物、漫画は間食といえる。

間食がよろしくないと止めれば、世の中から菓子屋もしるこ屋もなくなってしまう。
小学校の先生は漫画を学校へ持っていく者はいないからそれはしかたがない。
しかし先生の目をぬすんでまで漫画によみふける子供の漫画好きを、誰が止めることができよう。

これほど漫画は子供の生活に食い入っているのだ。
ここでわれわれ漫画家は考える。
なぜ漫画はわるいものだという人があるのか。

残念だがたくさんの漫画の中には子供の純な気持ちをむしばむ毒素を含んでるものがあることを否めないからだ。これではいけない。
先生も歓迎する栄養豊富な、しかも明るいゆかいな漫画を子供にあたえることこそ我々の義務だ。いやそれは天職だ。
子供が漫画を好むからといって、徒にピストルをぶっ放したり、無反省に社会の裏街道をえがくことは、漫画の墜落だ。

漫画はどこまでも明朗なもの、味はしつこくなくても、毒気のないもの、学校や家庭に喜んでむかえ入れられるもの、というようなところで、 これから漫画を勉強される読者は、がんばってほしい。つまり世の中から愛される漫画ということを念願して・・・』

■「最近の漫画の傾向」 馬場のぼる
『最近の雑誌(漫画)の傾向がキワ物を追うという事にあくせくしていることです。
子供の夢とか笑いなどは、そっちのけで、ただ刺激を強くすることのみに専念している現状です。
こうして毎日毎日そういう目に見えない渦に巻き込まれていると、自分では気のつかないうちに神経がまひしてしまって、 時折自分の作品をふりかえって驚く事があります。

−編集者の皆さんに聞いてみると、誰でもがもっと健全なものを求めて、現状ではいかんということを自覚している。
漫画家もやはり同じように考えている。にもかかわらず悪の傾向に流されるというのは誠にへんてこな話である。

更におかしなことは、この大きな流れをつくったものはだれかというと、読者達の要求でなく、編集者と漫画家の創ったものなのです。
どんどん刺激を強くしていった結果、子供にうけるにはこうする以外にないという錯覚がこのような傾向を創ったのでしょう。』と述べている。

■「単行本の漫画と雑誌の漫画」 手塚治虫
『子供漫画には無邪気さが第一条件としてあげられます。
そこには、善も悪も、国際情勢も陰うつな社会面も、すべて一種のおとぎ話の世界があるだけです。

しんらつな風刺を目的とする大人漫画とちがって、子供漫画の唯一の目的は、子供に愛を与える事です。
とにかく空想のつばさを思いきりひろげてかけめぐるがよろしい。』

■「”漫画研究”に望む」松下井知夫
『多くの少年達の一生を左右する重大な会の今後の在り方としては、たとえ、漫画家になれなくても、漫画の研究を通じて将来何れの社会に出しても充分に役立つような人間育成の場としての研究会であって欲しい・・・。生花や茶道を、単に趣味として拾得しつつもそこから得られる真善美の知性教育は、その枝芸を離れても豊かな人間性として残ります。会の永続性を念う意味でも、児童漫画の研究を通して、少年達をそのように育成できれば、漫画家になれなくても将来のプラスですし、親にも教師にも喜ばれるでしょう。それこそ、学校教育ではできない、しかも、多くの少年達が喜んで熱中できる漫画部門の重大な教育的役割です。大勢の少年達の一生を左右する当児童漫画研究会の在り方が、そのような方向に努力されんことを望みます。「漫画研究」創刊号を拝見し、これに蝟集する少年達の将来をかんがえて、貴会の責任の重大さを痛感する余り、感想の一端を述べました。』と記している。

■「のらくろ誕生記」 田河水泡
 文芸春秋の臨時増刊「漫画読本」の中の「のらくろ始末記」の一部を転載したもの。

■「漫画に関する十二章」 「少年」 編集長 金井武志

■「漫画をかく心」(二)芳賀まさお
漫画の絵について、どうしたら、うまい漫画の絵がかけるか。見るものに「笑いを誘うものでなければいけない」ということが必要になって来る。と述べている。

他に、
  • 「漫画学校」−漫画のいろいろ− 松井利一
  • 「わが投書時代」島田啓三
  • 「漫画望遠鏡」編集者、侍会、原稿料、赤本といった語句の解説、
  • 漫画講座では山口あきらが「原爆時代のまんが」について
  • 「投書漫画家の生活と意見」
  • 「原稿が本になるまで」、
  • 「ライムライト」では永田竹丸を紹介
  • 「投書漫画えんま帖」
  • 「ぼくらの声」などと続いている。

まんだらけ目録15号より

S28.04.20 4月号
  • 「ジャングル大帝」連載32回
  • アルベルト篇1
  • 「漫画教室」14回 いろいろな形式1,パノラマ漫画 2,フィルム漫画 3,漫画絵物語 4,往復漫画 5,クイズ漫画 6,絵モジ 7,うごく漫画 8,はめえ 9,れんさい漫画
  • 「チョウチョウ交響曲」は第2楽章へ。
「豪勇金時」まさごは崖から突き出たかれきの枝に引っかかって命が助かった。

もしも枝がもう何センチどちらかへはずれていたら、とても命はなかった。
「そうだ、山でこの子をうもう」まさごはそう決心しました。

そして数々の苦難ののち、物語の主人公豪勇金時の誕生となる。
「灰色くびの野がも」解説・絵(手塚治虫)。

愛読者投稿漫画東西対抗大試合。
行司 手塚治虫先生。
けんさ役 編集の方々。
優勝 山田安次、敢闘賞 寺田博雄、殊勲賞 松崎ヨシオ、残念賞 小野寺章太郎。



S28.05.20 5月号
「チョウチョウ交響曲」「ジャングル大帝」「豪勇金時」「漫画教室」(擬人法)、よみきり探偵漫画「ジャガイモ君村へかえれ」(うしおそうじ)等に息をつくひまのないほどの展開で面白い。絵ときシリーズ「わがはいは川である」(中野正治)アメリカ漫画「ボウ」(フランクベック)「ストレート・アロー」(フレッドミーガー)も続いている。
感激物語「三本指の友情」(池田宣政)、とんち物語「土の中のリンゴ」(村山三治)、愛読者東西対抗漫画大試合。優勝 小川明良、敢闘賞 松崎ヨシオ、殊勲賞 川本長鳩、残念賞 楠 高治。



S28.06.20 6月号
「ジャングル大帝」ではレオの子ルキオや多くの動物が人間と科学の力で死斑病から救われる。「豪勇金時」の金太郎は母と足柄山のほら穴に住みついてから二年あまりの年月がたつ。ある晩、母の寝ているうちに、ほら穴の口まではい出して、大きな熊に出会う。「チョウチョウ交響曲」、「漫画教室」、「てるてる兄妹」、漫画映画「小人と青虫」(古沢日出夫 解説)など多色刷りのページが増えてぐんときれいな楽しい雑誌。



S28.07.20 7月号
7人の先生方がそれぞれ幸福についてとりあげた特別合作漫画「七つの幸福」(茨木、白路、瀬越、古沢、夢野、うしお、田中、舞台まわし、馬場)。新連載長編漫画・「カボチャ三勇士」(福井英一)。「チョウチョウ交響曲」・・・江戸へ出たチョウ子は果たしてお父さん、お母さんの仇討ちができるだろうか。第二楽章終わり。漫画映画物語「小さなインディアン」(ディズニー、うしおそうじ画)。「漫画ユートピア」(田河水泡)など。



S28.09.20 8,9月合併号
新連載漫画「山猫少年」(茨木啓一)、映画絵物語「四人なら負けない」(阿部和助)、「豪勇金時」「ジャングル大帝」「チョウチョウ交響曲」は第三楽章がスタートする。「カボチャ三勇士」「てるてる兄妹」等カラー 多色刷りあり、味わいのある、すばらしい漫画や絵物語が読める。
注、「チョウチョウ交響曲」第二楽章までが美しい本になって学童社より発売予定の予告が載っている。



S28.10.20 10月号
特集「アトム大使」第一回(手塚治虫)「少年」に連載したものを新しく書き直した。笑いあり、涙ある「チョウチョウ交響曲」。ますます面白くなる「ジャングル大帝」。愉快な底抜け三人組「カボチャ三勇士」。次郎熊と三郎猿を家来に足柄山をかけまわる「豪勇金時」。明るく元気で朗らかな「鉄ちゃん物語」。ちゃっかりてる子とうっかりてるおのいつも愉快な「てるてる兄妹」。しかし、今月号で連載終了。新連載として、「母ちゃん」(はがまさお)。漫画訪問「ある日の手塚先生」(坂本三郎)「立体漫画館」(永田竹丸)など投稿漫画家の作品が多くなる。