墓標に戻る

幻の漫画少年 全リスト

文・相澤亮一

「漫画少年」と私(6)
今回は、昭和27年発行の「漫画少年」について記してみる。
漫画の投稿に一番熱中していたのは昭和27年で、新制中学の三年生だった。
「漫画少年」の四月号から始まった手塚治虫の「漫画教室」で、漫画学を大いに勉強した。
「漫画少年」の愛読者漫画大会で、特賞の入選候補になるまで上達できたのは、他ならぬ漫画大学の校長兼小使であるナンデモカンデモ博士の指導によるものである。
講義で教わったことを忠実に実行した例として、修学旅行で奈良を訪れた際に若草山の辺で、古梅園の紅花ズミであたまに三つ丸のついているのを買い求めたことがある。
漫画を描くのに使用するペンは、丸ペンと丸大ペン、ファルコンペンの三種類、それに面相ふで、ハヤシインキ、ポスターカラーのホワイト、からすぐち等も「漫画教室」で学んだ。顔を描くだけでも、三種類のペンを使い分けた。
すでに、手塚治虫の単行本「漫画大学」は読んでいたが、あまり影響を受けていなかった。

「漫画少年」では、漫画のほかにカット、読者だより、詩などの文芸作品が誌上に載ると、七宝入りの入選記念バッチを、入選候補になると、特賞としてスケッチブックが貰えた。
他の雑誌にも、はめ絵や入れ絵に応募したことがある。締め切りがせまり、授業中に描いていて、先生に見つかった。しかしおこられなかった。気をよくして急いで投函したこともある。
旺文社発行の「中学時代」昭和27年九月号特別懸賞で、はめ絵も含まれていて一等に当選した。高級空気銃が送られて来て、一時友だちの間で評判になった。
そして見知らぬ人から、学校宛で私に不幸の手紙が舞いこんで来た。
破いて、野球の二塁ベースの下に捨てた。中学生の時に野球部にいた当時の一コマである。
また、友だちを見習ってNHKラジオ基礎英語講座を聴いた。野球でしぼられて特に朝は起きづらかったが、毎朝6時から15分間、一年を通して聴いた。 講師は当時日本女子大学の教授柴崎武夫先生だった。
そして私の進むべき方向が、基礎英語講座を聴くことで決まったと言ってよい。
昭和28年に柏崎の高校に入学し、漫画を卒業することになる。高校一年から平川唯一の英会話「カムカム英語」を聴いたりしながら、受験のための勉強をする。
そのようなわけで、高校の三年間は、全く漫画を忘れなければならなかった。
しかし、完全に漫画から足を洗うことは出来なかった。

さて、昭和27年の新年号はハードカバーのニュースタイル、単行本形の豪華な雑誌である。
その中で一番気に入ったのは「新年おめでとう」の口絵である。手塚先生と上野動物園のチンパンジーのスージーちゃん、レオとしかのトミーがカラーで載っている。
二月号にも「ぼくらの原一司先生」とカラ兵衛、エンヤコラサノ助のカラー口絵が載っていた。
二枚ともペン画にして送った。後年どういうわけか、目で見る少年少女百科「漫画のかきかた」(昭和31年四月初版、秋田書店)に二枚とも載っていた。
見つけた時は大変びっくりした。浪人中で東京に下宿していた時のことである。
なお新年号には、別冊大付録として「漫画のかんづめ」がついた。
おもて表紙は手塚治虫の絵で、前述の「漫画のかきかた」の表紙絵に同じ絵が使用されていた。
うら表紙はポパイがカラ兵衛のカンラ煮のかんづめを開けている絵で、同じく手塚治虫が描いている。
そして、中に横山光輝の作品「畠の宝」が掲載されている。
三月号には特別付録として、アメリカ漫画「タコのオットー」がついた。
四月号にはアメリカ第一の人気絵物語「ストレートアロー」が新連載で登場しているが、私は「ジャングル大帝」こそ、当時、第一のストーリー漫画であったと考えている。
また、「漫画教室」と「とんとんとん吉」(宮尾しげを)の連載が始まっている。
五月号は、投稿した漫画が初めて特賞入選候補になり、スケッチブックを貰った。
六月号には手塚治虫の解説で、ディズニーの漫画映画「ポンゴ」が掲載されている。そして六月号に続いてすぐに、臨時増刊号が発売されるが、その記事を紹介してみる。
花も葉もそよかぜに笑うたのしい五月、明るい五月、みなさんの胸も元気にふくらみ、おどりたちたい気持ちでいっぱいです。そのみなさんの毎日をいっそう愉快に楽しくするために、こんど「漫画少年」の編集局では、とくにこの六月号とつぎの七月号とのあいだに、特別にもう一冊、とびきりおもしろい「春の大笑い大増刊号」をつくってお送りすることにしました。
子どもの日記念号として、もとの大型本の大きさで、臨時大増刊オール漫画号が発行された。
「漫画少年」の過去五年間の作品の中から、特に大傑作だけを選んで集めたもので、いわば記念の漫画傑作大全集だった。
七月号も増刊号と同じ元の雑誌の大きさに戻り発行された。以後昭和30年十月休刊まで大きさは変わらない。
八月号には、手塚治虫の「漫画教室・夏休み林間学校」が特別付録として載っている。
当初は別冊付録にする計画だった作品。また予定通り講義が終わったら、「漫画教室」を一冊にまとめ、単行本として発行するという投稿者にとっては待望の企画も載っている。
「ジャングル大帝」第三篇がはじまり、オウムのココの命名でルネとルキオが誕生、レオは父おやとなる。
また、うしおそうじの「チョウチョウ交響曲」が始まっている。
続いて、「漫画少年」の名物、夏休みオール漫画号が、臨時増刊として発刊された。
表紙は手塚治虫の絵で、トンカツの作り方のマニュアルを脇においた二匹の魚が、豚公をフライパンで揚げている構成で、思わず笑いがふき出しそうになる。
前に出た臨時大増刊オール漫画号とはガラリとかわった、ギッシリつまった漫画のほかに、夏やすみをゆかいにする楽しい遊びのページ、宿題の参考になる社会科絵とき、絵話絵物語など、押すな押すなではちきれんばかり、すみからすみまで面白づくめの夏休みオール漫画号として紹介されている。
九月号には次のような記事が載っている。
八月号から急に少女の読者が多くなったのはどうしてだろうと、どこの本屋さんでも首をかしげています。
それはふしぎでもなんでもありません。うしおそうじ先生の「チョウチョウ交響曲」が始まったからです。
うしお先生の少女漫画は「ぽっくり物語」「おせんち小町」などで、日本中の少女が熱狂しているので、こんな騒ぎになったのだと思います。
そして「チョウチョウ交響曲」は「ジャングル大帝」とならぶ、「漫画少年」の二大柱となっていくのである。
十月号は特大号として発売され、十一月号「僕はマンガ家である」の表紙で、ペンと鉛筆、ケント紙をもった手塚先生そっくりの人形が被写体となっている構成で、興味深い。
十一月号には、手塚治虫の「大自然と空想」が新しく連載されている。
また、うしおそうじが構成をねっている長編漫画の記事が載っており、題は「鹿笛」(多分「鹿笛の天使」)。
来年の春に単行本として発行される予定・・・とあり、大変興味深い。

まんだらけ目録12号より

S26.12.20 1月号
単行本の新形雑誌ハードカバーになる。
別冊付録「漫画のかんづめ」(口絵写真) 手塚先生、レオ、トミー、スージーちゃん、 新連載漫画「鉄ちゃん物語」(田中正雄)、 「母をたずねて」(奥村望)、 新連載小説「青空は高いよ」(永見七朗) 「ジャングル大帝」16頁、 「カンラカラ兵衛」8頁など、評判のつづきものはいよいよ面白くなるばかり。



S27.01.20 2月号
(口絵写真)原一司先生とカラ兵衛
特集「ピノキオ」(解説・構成・手塚治虫)、 「ジャングル大帝」「漫画村」「カラ兵衛」「てるてる兄妹」「カッパ太郎」「鉄ちゃん物語」「おてがらハヤちゃん」「次郎物語」「鉄の道」等、 連載漫画や読物てんこ盛りになっている。



S27.02.20 3月号
別冊付録「たこのオットー」(アメリカ漫画)
(口絵写真)四人のお子さんと沢井一三朗先生。特集 アメリカ漫画傑作展。
刀を抜かない「カラ兵衛」、しかし、「カンラ村とニガムシ村の大げんか」では村人が刃物で応戦。
最後は、カラ兵衛の大声にしびれて、いくさはおさまる。漫画らしい結末である。
その他の連載物あり、一読をおすすめしたい。



S27.03.20 4月号
新連載特集「漫画教室」(手塚治虫) 投稿漫画を勉強する者には大変素晴らしい企画。
新連載漫画物語「とんとんとん吉」(宮尾しげを)、新連載「ストレート・アロー」(アメリカ絵物語)「やさしいワンダ」(アメリカ漫画)等が連載され、 ますます発展を続けている。



S27.04.20 5月号
「ジャングル大帝」「漫画教室」「漫画村」「カラ兵衛」「てるてる兄妹」 「鉄ちゃん物語」「とんとんとん吉」「鉄の道」「少年のための次郎物語」「青空は高いよ」 「ストレート・アロー」「ウイッジリイおじさん」(アメリカ漫画)などの連載がある。



S27.05.20 6月号
毎月連載される「ジャングル大帝」や「次郎物語」等、どれもこれもすこぶる好調である。
ディズニー漫画映画「ボンゴ」(解説 手塚治虫)
新連載漫画「ホームラン先生」(瀬越憲)、少年漫画詩「河童物語」(田河水泡)、 「私のページ欄で田河水泡、大槻さだお、沢井一三朗、宮尾しげをの四先生が自分に関わることを様々に描いていて実に面白い。