今期(2018年4月)アニメでは「ピアノの森」を楽しんで見ています。原作が好きなので、どこまでやるのか気になるところ。
音楽モノは漫画の中でも一大ジャンル。切り口も様々で、楽器に焦点を当てたものから、バンドものまで。
「オススメ音楽漫画○選」って特集も多いですね。
本日紹介するのは、そんな音楽漫画の中でもあまり目立たない、"指揮者"に焦点を当てた漫画です。
やまむらはじめ「天にひびき」(全10巻:少年画報社)
作者のやまむらはじめ先生は、世間的には「カムナガラ」とか「神様ドォルズ」とか、伝奇アクションもののイメージが強い感じがします。
ですが、わたし個人としては鬱屈した主人公を描いた青春ものがピカイチの作家さんだと思っています。
なので、この「天にひびき」はまさに作者の得意とするところ、毎月連載を楽しく読ませてもらっていました。
ぶっちゃけ、今回これを紹介するのは、「音楽漫画○選」で毎回「天にひびき」を探しては入ってなくて口惜しいからです。
さて。
音大を舞台として青春群像劇でもある本作。
表紙の子・曽成ひびきと、彼女の指揮に影響を受けたヴァイオリン奏者・久住秋央を中心に物語が進みます。
序章。印象的な1シーン。幼い子供の指揮に引きずられるようにプロのオーケストラが音を出します。
幼いころからヴァイオリンをやっている主人公の秋央は、このシーンに遭遇、ショックを受ける。
音楽は続けているが、惰性でやっているような感じに。
しかし、音大に入って、彼女と再会することで、物語が動き始めます。
「彼女の出そうとする音を演奏する」という目標を得て、もがき苦しみながらも進んでいきます。
この物語の素晴らしいところは、天才・ひびきと主人公・秋央を、ライバルではなく、指揮者と演奏者に配置しているところ。
作中で言及されているように「指揮者は音を出すことがない」。
その指揮者の中に響いている音楽をいかにして汲み取り、音として表現するか。
その切磋琢磨がスリリングに描かれます。
メインストーリーはそういった「天才に追いつこうとする凡人の物語」「指揮者と奏者の関係の物語」ですが、同時に、前述したように「音楽に関わる人たちの群像劇」でもあります。
以下に物語を彩る登場人物たちを簡単にご紹介。
ひびきと秋央はライバル関係ではありませんが、ある意味ライバル的な立ち位置になるのが、指揮科の色男・梶原。
チャラチャラした外見とは裏腹に苦労人であり、努力の人。
ゆえにひびきの天才っぷりとの対比が痛々しくもあります。
学生を主軸にした物語なので、当然色恋のなんやかやもあります。
ひびきがヒロインかというと、そもそもそういった色恋沙汰とは無縁な精神構造なので、イマイチ「ヒロイン」といった感じではない。
なので、そこは別のキャラが担います。
ヒロイン候補その1:秋央の幼馴染みの迫田美月
ピアニストでヨーロッパで賞など取って、すでにプロとして活躍しています。
以下の画像は秋央のアパートを訪れる前の身だしなみチェック。
はい、可愛い。
彼女はすでにプロとして活動しているので、学生たちの中に別視点を持ち込むという働きもします。
あと、秋央のケツを蹴り飛ばします。こりゃ、尻に敷かれるなぁ、といった感じ。
ヒロイン候補その2:"音羽良の黒姫"波多野深香。
ロシア音楽をこよなく愛する技巧派ヴァイオリニスト。秋央に片想い中。あ、音羽良というのは舞台になっている音大の名前です。
無口無表情で難易度の高い曲を弾きこなす才媛。
しかしてその実態は......
はい、可愛い。
それはともかく。
物語は上記5人にその周りの人々を中心に進みます。
学生生活、楽しそうですよね(鍋パーティとか↓)
学生の他にもリハビリ中の老音楽家や、若手オーケストラたち、引退した名演奏家などさまざまな登場人物たちが描かれています。
そんな中、わたしがとくに好きなのが、こちら。
ひびきの指導教官でもある須賀川先生。
オケの自発性や個性など知ったことか、プロのオケでも締め上げる、求める音楽のために一切の妥協を許さない独裁者。
すこし長いですが、9巻にある須賀川先生に対する秋央の独白を引用します。
「(前略)ゲネプロのときにあれこれ思った不満。時間を置いて冷静になってみれば、それらが全部この演奏をキチンと構築してゆくための細かい"詰め"である事に気づく。この人はひびきが直感でやっていた事を、全部、理詰めで組み上げてゆくんだ。(中略)そう、天才でない以上、普通の人間はそうやって高みを目指すしかない。無論そうした所で限界は自ずとある。たかが知れてる。けれどそんな凡俗の徒であろうと、やれる事を全てやり尽くし、幸運にも、その努力の方向が間違っていなければ、ごく......ごく稀に......カミサマが振り向く。奇跡がおきる」
天才でない人間の、あまりにも悲観的ではあるけれど、それでもごくわずかな可能性を求める心境。
この作品を象徴してあまりある独白です。
もっとも、この須賀川先生にしてひびきを前にしては......
ご覧の有様である。
そして、話の中心であるひびきも、もちろん物語があります。
簡単に「天才」と称しましたが、作中は彼女の挫折・苦労もふんだんに描かれます。天才といってもまだまだ若く、足りないものが沢山ある。
何より、
自分で音を出さない指揮者。他の演奏者にはない苦労があります。
成長物語ではあるのですが、作者の作品に共通する傾向ですが、飛躍などなく、感動はあれど一足飛びの開放感はほぼありません。
まさに、地道に一歩一歩進む様を読む感じ。それが実に面白い。
最後にもうひとつ。
この作品を読むうえで外せないのは作曲家・吉松隆によるコラム。
わたしのような楽器を演奏したこともなければ楽譜すら読めない門外漢にとっては非常に為になるコラムでした。1巻の指揮者のタイプ別の話なんかはとくに面白かったです。
これがあったので、作中の登場人物たちの価値観を「なるほど、こういう見方なのかな」と推測しながら読むことができました。
そんなわけで、凡人が天才を求める物語、この機会に是非手に取ってみてはいかがでしょうか。
と、そういえば、主人公・久住秋央の顔画像を紹介していませんでした。
もとい。
......上の画像は極端ですが、しかし、あんまり締まった絵面がない主人公です。
悩んだ末、コンクールのシーンから。
眼鏡のいい男ですよ(とってつけたように)。
グランドカオス 山本
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