野坂昭如と快楽天

野坂昭如さんが亡くなりましたね。

野坂さんは新潟生まれで、僕が子供のころに選挙に出馬。当時の新潟での選挙といえば、それは今太閤こと角栄サンがおりまして。
うちは両親とも新潟に転勤してきた身で、茨城から新潟の現在の駅南のあたりに引っ越してきたわけですが、「そのころは駅南なんて泥田沼みたいなところだった」といっていました。現・南笹口から亀田あたりは治水が良くない土地だったんですな。

まあいまだって県庁所在地のJR新潟駅からわずか1キロあるいただけで白鳥がホーホーやってきたりするような土地柄ですが、そこに排水場が出来、土地が整備され、道路ができあがり、高速道路かと見まごうようなバイパス(新潟市民のバイパス好きは常軌を逸しています)を作り、新幹線を無理やり新潟に通し、除雪車を大量に導入し、融雪パイプを道路に通しまくり、グンマと湯沢の間に10キロもあるアホみたいなトンネルを作ってまでも関東から高速を延伸させてきて、やっと新潟は街になったわけです。これをすべて角栄サンがやったわけではありませんが、角栄サンがいたからこそこんなムチャが通ったというのも疑いようがない事実でしょう。

賄賂政治だ腐敗だなんだといわれてもこの「みるみる生活の基盤が整っていく」ことへの恩義についてはみな頭を垂れるほかなく、法事の席で在・東京の親戚が酔って「新潟県民はなぜ角栄を当選させるんだ」と激昂しているのに、ポツリと誰かがこういうことをいったのを覚えています。
「そういうのは(もとから何をするのにも便利で、環境が整ってて、天候も豊かで苦しくない)東京の人にはわからんさ」

角栄サンというのは偉大なるリアルだったんですね。
「新潟とグンマのあいだにある山をけずってしまいましょう!そしてその土で佐渡と地続きにしちゃえばいい」。なんて今の政治家がいってもまるで信用できませんが、角栄サンであれば「やりかねんな」と思わせる実行力があったわけです。

そんな政治的な「リアル」に対し、まったくもって「リアルではない」作家である野坂さんが、どんな評価を僕らの親世代からされていたのか分かりませんが、そのころは後年の大島渚を殴るようなイメージの酔っ払いキャラの野坂さんではなかったからか、冷ややかな目で見る人もいる反面、好意的に見る人もいたように思います。

さて、このブログってこんな話するところじゃないですよね。話を変えまして・・・。

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ここにコミックLOがあります。これは第10号ですね。
コミックLOといえば編集方針のブレなさでつとに有名な雑誌ですが、最初の1号が出たときに、古書好き&成年コミックを読み込んでいるアツいマニアたちは

「これはさすがに回収されるんじゃないか」「これは長続きしないだろう」

とおもったものです。自分も即、買いに走りました(RAITAさんの戦車と少女の話が忘れられないですな)。
ここで「なんでかって?」って話をすると日本ロリコン史みたいな話になるから割愛しますが、

僕が大学のころまではまだ

「アソコが見えてなきゃ、(三次元の)少女のハダカは違法じゃないヨ」

という時代だったのです。今から考えると・・・ゆるい。じつにゆるいですね。
その後アソコうんぬんはともかく乳首だしてたらそういうのはもう全部少女ポルノじゃ、とお達しが来て、世の好事家というか、いわゆる少女愛好者とか、陽の当たらない道を歩くぞと決めた古本好きとか、ハードな変態とかは、「合法であるうちに手に入れておくか」という暗いムードが漂ってたわけです。(結果、そういった人たちも単純所持禁止でみんな手放すことになったんでしょうが)。

LO創刊時はかなりそういった意味でロリコンとかロリータって表現どころか、単語自体にも締め付けが感じられた時代だったんですよね。当然マンガでもです。
そんな中ロリータマンガ専門誌を標榜する雑誌が出たんだから、まあびっくりしたわけです。単行本でロリっぽいのがでた、なんて世界じゃなく、ロリータしか載ってない雑誌を作っちゃった、というのが驚きだった。

2号が出たときには、
「問題にならなかったんだ」「続巻出せたんだ」

と驚嘆。いまでこそ月刊ですが、1号から2号までは、たしかけっこうな間が空いたと思いますよ。そして何ヶ月かに一回出るようになり、いつのまにかLOは定期的に出るようになっていたという次第です。
で、この「定期的には出るようになったよな」時期は、表紙の上にこうあったんで苦笑したものです。

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「熟女ものがたり」増刊

中には少女、どころか幼女があらわな姿で「踊っている」LOが、こともあろうに「熟女ものがたり」の増刊だとは・・・あまりにたかみち表紙には似つかわしくない単語が書いてあったわけで。

これは雑誌コードの問題ですね。雑誌コードをとれた本はそれなりの流通システムに乗ることができるんですが、ある程度「定期刊行物である」という実績をつくらないと、雑誌コードというのは取れないんですね。
なので実績がない最初のころは、他の雑誌コードを持っている本の「増刊」とか、「別冊」ということにして、その流通に乗せてもらう、と。それである程度実績ができたら単独の雑誌コードを取ろう。という流れ。

だから単独雑誌コードを取得する、というのは、雑誌を見守ってきた人からすると「おお、成長したな」というカンジです。家の近所にある喫茶店だのメシ屋がいつのまにか自動ドアになった、とか、券売機が立派になった、みたいなものですな。

そんな感じで、あのアダルトコミック雑誌界での巨星「快楽天」も、最初のころはとある別誌の増刊扱いだったんですよ。これもまた奮ってて、なんと漫画エロトピアの増刊だったんですね。

エロトピアというとこういう感じの表紙で分かるように旧態依然としたエロ劇画誌ですが、そのころの快楽天は表紙に村田蓮爾氏を起用した、デザインも内容もエロ界のニューウェーブとかハイブリッドなイメージ。新たなことをはじめるぞという心意気が伝わってきて、90年代はみんな夢中になって読んだものです。

が、表紙の裏を見ると「漫画エロトピア増刊」と書いてあって、なんか苦笑しちゃうというか。快楽天とエロトピアというのは真逆ですからね、読者も目指すところも。変わらないことが大事な雑誌と、変えていくのを目指す雑誌というか。これはLOと熟女ものがたりでもそう。だからこそそのギャップで苦笑しちゃうんですね。

なにしろ高卒でドカタになった僕の友人が20歳当時愛読しており、それは当時でもそうとうな変わり種だったわけですが、彼がアフリカのベナンに長期出張にいった際「ベナンではエロトピアが読めねえんだよ。岩井、エロトピア送ってくれよ」と懇願された思い出があります。当時からして工員とトラッカーの友、という磐石のイメージでしたから。
(ちなみに国際郵便で「デラべっぴん」と「エロトピア」をベナンに送ると、たしか3000円近くかかりました)

さて、漫画エロトピアの「エロトピア」って、みんなうっかり「英語だろ」とか「ギリシア語だろ」「なんにせよ外来語」などと思いがちですが、これ造語です。だれの?というところで、やっと話が戻ってきて野坂昭如さんの造語なんですな。
野坂さんは代表作のひとつが「エロ事師たち」でもあるように、性に関しては言及も多く、文章もひときわ多く書いてたのですが、69年から文春で自身のオナニーネタから人々の性体験ネタから下ネタ全般をエッセイとして連載してて、そのコーナーの名前が「エロトピア」だったんです。

なんでも「ポートノピア」という単語はあるけれど、性にまつわる「エロトピア」という言葉はない、これは僕の造語だから・・・という話。もっともポートノピアのほうがいまは知らん語なんですけれどね。

もちろん、これは「漫画エロトピア」の名づけ主が野坂さん、というわけではないんですが、エロトピアの創刊は73年。野坂さんの73年といえば氏が雑誌の編集長をしてた「面白半分」に載せた「四畳半襖の下張」が発禁処分をうけ、このあと延々と表現闘争をしていくわけです。今でも発禁処分、性表現という話にはこの争いが必ず出てきますね。

雑誌であるエロトピアには野坂さんとの関連性はないものの、自分のオナニーネタまで晒して男の悲哀も表現したエッセイ「エロトピア」にリスペクトはあったんじゃないでしょうか。そして表現について戦う姿勢も。そんなことを考えちゃいますね。

なにはともあれ、野坂さんのご冥福をお祈りします。


(担当/岩井)

中野店 岩井

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