打ち切りに愛を!...長屋の雨どいと木目に注がれる熱量

どうもこんにちは。ようやく椅子を買ったので一年越しの脚立生活から解放された中野店白石です。

 打ち切り漫画って星の数ほどありますが、全1巻、全2巻、全3巻それぞれに特徴があると思います。1巻:残念ながら絵柄・話共にぼんやりしたまま、週刊少年ジャンプだと翻って伝説化する場合も2巻:「ひょっとしてこれがやりたかったのかな」というセリフやコマが一番最初か後半に現れる、畳みは駆け足3巻:「ああこういう漫画にしたかったのか」という意志がハッキリ分かるシーンがある、ページに若干余裕があるため、力量によってはなんとか話がまとまっている

私この全3巻って好きなんですよ。作者の思うキービジュアルや話の骨子が一番シンプルに顕現していて、そうならざるを得ない「冒険はこれからだ」エンドでも、読後に余韻が残るんです。

それから、当時ただ単に掲載誌の肌に合わなかった、ペースが追い付かなかった、望まれているものと違ったとか、タイミングや他の要因で打ち切りになっている作品も多い気がします。

あとのちの長期連載作家が駆け出しで描いた作品が全3巻ってのもよくある話です。当時"ゲームの「ICO」とFFを足して2で割ったみたいだな"と思っていた古味直志の『ダブルアーツ』が、3巻のほんっと最後の方で「踊りながら戦う」っていう本流を明かしたところでカットアウトとか実に悶えましたよ。「それならそうと早く言って!!読みたかった!!」って。

というか、私が好きになる作品は結構な確率で打ち切られて全3巻になります。え、コレいいじゃんなんで?こういうやつを支持されないからって終わらせるとかセンスどうなってんの?と何度雑誌で思ったことか。

あ、別に恨みはないですよ?それもしょうがないかなって空気も同時に感じてますし。ただ週刊だと全2530話くらい、描き下ろしやなんかも含めると誰かしらのキャラに愛着がわいてるんです。だから余計にツライ。

そんな前置きで紹介するのもなんだか申し訳ないんですが、今回の漫画はこちら。

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もののて/宮島礼吏/講談社新書(3)

かなり作り込んだ上で満を持しての連載開始だったようで、なんだよーもっと描かせてあげればよかったじゃんかよーと個人的には思います。だって読みたかったんだもん。

ヒロインの「おこた」。

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『AKB49』で鬼のように女の子を描き続けていた作家だけあって、表情豊かでまぁーそりゃ可愛い。

嫁入り前に暇を貰って数日間の一人旅に出た娘で、ほんとは医術に興味のある少し変わった子。

そして主人公・皆焼(ひたつら)がこちら。

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見ての通り、両手が左右逆に付いています。それ故に化け物の手を持つ怪物「もののて」と呼ばれ、行く先々で疫病神扱い。こいつが実は望月衆という里の忍で、稼ぎのためにあれこれ任務をこなすわけです。

異形のなかでも「両手が逆」っていうキャラは初めて見ました。それによって生じる違和感も多々あり、たとえば湯呑みや箸(小刀)、茶碗の持ち方が変わってきます。

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これは新鮮だったな。手が逆だとそういうことになるのか。

ふとした拍子にこの二人が出会い、おこたが皆焼の手を「可愛い...!!(?)と感嘆するところから始まります。

そんで飄々とした皆焼はスケベ男の役回りでもあるので、ラブコメ要素も多数。

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時代劇なんですがやっぱり少年漫画らしいエンタメ寄りで、何より皆焼の戦い方が何でもアリでかっこいい。刀を普通には持てないってのも相まって、飛んだり跳ねたり盗ったり投げたり。

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ちなみに作品内でのラスボスにあたるのは、23巻で登場するこの織田長雄(おだながかつ)

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おこたの婚約者で名刀「へし切り長谷部」を携えるソイツの、このシーンがとても良かったんですよ。

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バトル漫画の敵キャラに多いのは、往々にしてモブっぽいチンピラか目立つだけのクズ野郎のはず。でも敵役の冷徹漢とはいえ、こういう人間らしい描写があるとやっぱちょっと好きになれますね。

 なんやかやのチャンバラに乗せて語られるストーリーの本筋は、「仕事と生き様」について。平和になっちゃった江戸の太平の世で、かつて暗躍した忍達はどんな雑用でも文句を言わない「ほんとは強い末端の会社員」として描かれます。おこたと皆焼も、中盤でステマ交じりの錠前売りとして任務に奔走したり。

そんな作品の本領が発揮されていると思うのがこの場面。

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背景の描き込みヤバくないですか。

この漫画、週マガで連載開始→webに移籍→終了という道筋を辿ってるんですが、この背景への熱の入りようは序盤から一切変わりません。これホントに週刊でやってたのか?ってレベルの変態クオリティ。

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この長屋の描写である。普通の週刊連載ならここまでやらんだろって所に飽くなき情熱を注いでいるところから見ても、一番伝えたかったのは「生き抜いて生活する姿」なんだなーと思います。長屋の日に焼けた板の間とか込み入った町の路地とか、人々の様子を否応なく補完して押し上げるこの説得力。この漫画は背景が主役!とも言えますね。

 さて、全3巻のうちどの時点で打ち切りが決まったのかは分かりません。ただ、おこたと皆焼それぞれにキャラクターそのものを説明するような、対照的なシーンがあります。

おこた。

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黙々と下働きをしていた頃と、皆焼と旅に出た当初の描写。この対比は終盤でも使われており、おこたにとってどっちが「望ましい世界か」が切なさと美しさで語られています。ここでも背景ヤバい。

そんで皆焼。

こっちは若干私の妄想が入ってます。3巻の最後らへんに収録されている過去話のワンシーンと、3巻の表紙全体。

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どちらもうずくまった姿を俯瞰で捉えた絵で、飯を犬食いしているコマと刀を抱えているイラスト。このカラーの方は作者ご本人のtwitterで全景ver.が公開されており、それがものすごくカッコよかったんですよ。

宮島礼吏 @Miyajimareiji  #もののて3巻発売

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星の夜空と皆焼の表情のコントラストが、なんとも有無を言わさぬ迫力。実は2巻まで買ったところで打ち切りを知って最終巻を買う勇気が出なかったんですが、twitterでこれを見て本屋さんに走りましたね。

この表紙を以てして、3巻の最終戦では刀を折られまくりながらズタボロで戦う皆焼。かっこいい...。

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 ちなみに聞きなれない単語「皆焼(ひたつら)」とは、刀の焼き入れ方法及びその刀自体に関する呼び名とのこと。こういった豆知識がコミックのカバー下にミニコラム的にまとめられているので、中高生時代に社会科の資料集とか好きだった人は結構グッとくるかも。

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では最後に、あまり語られなかったキャラ達を貼って終わります。望月衆の曲者っぽい女子(かわいい)。全体のキャラ配置的にも美男美女が多くて目の保養でもあったので、やっぱりもっと読みたかったなぁ...。

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巻数の短い完結漫画って一般書店だとあっという間に店頭に置かなくなっちゃいますよね。スペースの都合もあるんでしょうし。なので知名度や刷り部数からしても、ある程度リアルタイムで買っておかないと後々手に入りづらくなる傾向があります。そんな作品の数々、また気が向いたら紹介したいと思います。

今回の:『もののて』(3)

https://order.mandarake.co.jp/order/listPage/serchKeyWord?categoryCode=00&keyword=%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%AE%E3%81%A6

これも好きだぞ:『たくあんとバツの日常閻魔帳』(全3巻)

https://order.mandarake.co.jp/order/listPage/serchKeyWord?categoryCode=11&keyword=%E6%97%A5%E5%B8%B8%E9%96%BB%E9%AD%94%E5%B8%B3

ちなみに:『レベルE(3)

https://order.mandarake.co.jp/order/detailPage/item?itemCode=1026119730&ref=list

まぁこれは内実ともにチートですけど。

担当:白石

中野店 白石

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