私は『奇譚クラブ」の名を聞くのも初めてでしたが、久保田さんのご厚意で雑誌の中身も拝見させていただきました。めくるめくSMの世界。日本のSMの歴史についても久保田さんのお話を伺いました、江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」(1924年)や平安時代や室町時代の説話が頭をよぎりました。日本のSM通史というものがあれば、是非参考にしたいです。
また、お話のさなか何度も言及されたのが、日本の性的嗜好に対する寛大さ、つまり「奇譚クラブ」のようにSMを堂々と扱っている雑誌を、何度かの処分にも関わらず発行し続けることができたということについてでした。どのような年齢層がこの雑誌を購入していたのかは寡聞にして知りませんが、岡田斗司夫がかつて日本の漫画文化、漫画雑誌文化に対して言ったように、「お小遣い制度」という日本(東アジアの一部?)独自の文化が関わっているように感じました。欧米諸国では、子どもに欲しいものがあると、親にねだって親がそれを買って子どもに渡す、というのが一般的です。子どもがもらったお小遣いをやりくりして欲しいものを自分で買う、という風習が、月刊漫画雑誌、週刊漫画雑誌、ひいては漫画単行本を買うといった、日本の漫画・雑誌文化の礎を築いた可能性があると岡田は言及していました。カストリ雑誌から始まった「奇譚クラブ」も、そうしたある種のひそやかさの中から生まれたものかもしれないと感じました。
しかし、沼正三の『家畜人ヤプー』が三島由紀夫に衝撃をあたえ石ノ森章太郎に漫画を描かせたように、そうしたひそやかさが与える影響は決して軽々しいものではないということも知りました。「奇譚クラブ」は、日本の文化の裾野の広さ、奥深さを体現した雑誌なのではないかと思いました。