2010/5/10 21:00掲載
まんだらけ 小倉店

L.S.C in 小倉 〜ライトノベル普及委員会〜【第46回】文庫とハードカバーの間に横たわる何か (その6)

今回こそ山本弘先生の話を、と思ったのですがまた別の話です。

以前ハードカバーと文庫 (ライトノベル) の関係についてまとまらない話を書きましたが、またそれに連なるような話題がありました。

(図1)

このたび劇場版が公開される橋本紡先生の「半分の月がのぼる空」がそれに合わせて、ハードカバーで『完全版』として刊行されることになりました。 電撃文庫だと全8巻だったものが、上下で2巻ハードカバーで刊行。上巻を読んでみたところ、文庫の1〜3巻までの内容が改稿されて収録されています。

以前本稿のコラムでハードカバーについての文を読まれた方ならわかるかと思いますが、担当自身は文庫作品のハードカバー化、というものに関していささか複雑な思いを抱く人間です。
特に「半分の月がのぼる空」 (以下半月と略します) は、長きに渡って電撃文庫を支えていたロングセラーだけに、思いの丈はより複雑です。

ちなみに「半月」の電撃文庫1巻の初版は2003年ですが、担当がつい先日新刊書店で見た1巻は三十三版でした。これを見ても「半月」が、「涼宮ハルヒ」や「フルメタル・パニック」「灼眼のシャナ」などと並ぶベストセラーなのが分かると思います。前述の他作品と違い、「半月」がすでに完結している作品であることを考えれば、移り変わりの激しいライトノベル界でも異色中の異色といえます。

「半月」は、著名な作品であり、また直近の劇場版以前にもアニメ・テレビドラマにもなっている作品のため、いまさらネタバレを案ずるのも野暮かとは思いますが、万が一未読の方が以下の文を読んで先入観を持たれないように、いちおう改行して続きを書きます。(もっともウィキペディア等で検索すれば分かる程度のことですが…)


「半月」は、主人公の少年がヒロインの少女と出会い、恋に落ちる恋愛小説です。しかし、少女はいわゆる”不治の病”に侵されていて…というのがきわめておおざっぱなストーリーです。 あらすじだけ抜き出して書くと、おそろしいくらい陳腐で、一昔どころか四昔くらい前のフィクションの典型、と呼ばれても仕方のないところですが、この作品の素晴らしいところは、この使いまわされすぎたような陳腐な設定を、隅から隅までしっかりと書ききったことにあります。登場人物たちはいずれも生や死を一度にまともに受け止めることなどできない平凡な人々 (主人公やヒロインも含めて) であり、また彼らには大きな悩みを抱えていても避けられない日常がしっかりとあります。

これまでのヒロインの死を描いた作品とは違い、「半月」では訪れるであろう死を受け入れながらも日常を生きていく物語、ということです。だからこそ、この話の真骨頂は、主人公とヒロインが恋人同士になった後こそであり、彼らが学校に通ったり、デートをしたりする平凡な日常の描写こそが、この物語が長く広く読まれている要素だと担当は思います。

とここまで書いて思ったことは、やはりこの物語は巷間言われているような”ライトノベル”の定義からは大きく外れた作品なのだろうな、と改めて思いました。 そして、この名作が広く読まれるためには、やはりハードカバーという形式は必要なことなもかもしれません。残念ながら、ふだんライトノベルを全く読まない人が、電撃文庫でこの作品を手に取る、という確率は低いかとも思いますので。

もしこの作品を先日公開された映画、あるいはハードカバー版で入ったという方は、電撃文庫版もぜひ一度目にしてほしいと思います。山本ケイジさんのイラストで書かれた登場人物たちの姿を、ぜひ見てほしいと思います。
また、ハードカバー版は上巻の収録内容からみて、おそらく長編の1〜6巻を上下に分けて収録すると思いますので、電撃文庫の7・8巻も読まれて、さらに山本ケイジ画集「半月」も見ることをオススメします。


(図2)

次回は今度こそ山本弘先生の話…かどうかは不明ということにしておきます。

(担当 有冨)

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