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幻の漫画少年 全リスト

文・相澤亮一

「漫画少年」と私(7)
さて、今回は昭和28年発行の「漫画少年」について記すことにする。
一月号は、手塚治虫の「ジャングル大帝」が四色刷で巻頭を飾り「漫画教室」「チョウチョウ交響曲」などが引き続き連載されている。
新連載として山川惣冶の熱血時代絵物語「豪勇金時」が始まっている。山川が豪快なタッチで描いた男性的な勇壮大絵巻であり、幼少時に生家の近くの友だちの家で見せてもらった講談社の絵本の「金太郎」とオーバーラップし、興味を持って愛読した。
昭和28年の新年というのは「漫画少年」にとっては満五歳の年である。しかしその記念という文字は、どこにも謳われていない。増刊号発行の予告が二ページにわたって一月号に載っているので紹介しておく。
『初めて出る「漫画少年」の読み物の増刊!堂々四百ページ。こんな厚い雑誌でしかもよりすぐりの名作読みものがギッシリいっぱい。血をわかす豪快物語、なみだの感激物語、あかるい笑いの小説、胸のすく痛快談、心のあたたまる美しい小説などが二十数篇!ほんとに読みごたえのある大増刊』
これまで「漫画少年」から増刊号が出るといえば、漫画の増刊号というのがおきまりだった。読みものの増刊号発行というのは、今回が初めてである。
A5判のぶ厚い雑誌で、最終頁に編集室だよりとして、新年増刊読みものの名作集発刊の意図が載っている。次に紹介しておく。
『いつもおもしろい漫画と、絵物語と、絵ときのたくさんある「漫画少年」が、がらりとかわった「読む増刊」を出したので、びっくりされただろうと思います。だけど読んでみて「いい増刊だった。買ってよかった」とよろこばないかたはおそらくなかったとことと信じます。
なぜ私たちがこの増刊に対してそれほどの強い自信を持つか?それは、ここに集めた読みものが、過去二十数年の間に書かれたたくさんの作品のなかの、よりすぐりの珠玉篇ばかりだからです。
いま二十三、四から四十五歳ぐらいまでの方(そのなかにはあなたのおとうさんやおかあさんも入っていましょうな)たちには「あ、これは読んだことがある」と、なつかしく子供のころを思い出していただくものが、きっと何篇かあるでしょう。そのころの雑誌でも、しんそこから読者の心をゆりうごかす名作というのは、そうたくさんはありませんでした。まして、こんな作品が一さつに三篇もそろって載るというようなことは、とてもなかったことです。
それを考えると、今度のこの増刊はいままで日本のどの子供も読むことのできなかった一番すぐれた読みものの雑誌ということになりそうです。あなたはどうお思いでしょうか?(以下略)」
ちなみに目次をみると、「海の男」大佛次郎、「小指一本の大試合」山中峯太郎、「負けない少年」吉田甲子太郎などが目にとまる。他の著名な作者は、小山勝清、豊島興志雄、久米元一、竹田敏彦、太田黒克彦、山路武夫、安部季雄、南洋一郎、赤川武助などである。
漫画も載っており、中島菊夫の長編漫画「白い子ねこ」、フレッドミーガーの「ストレートアロー」、手塚治虫の一頁もの「私のらくがき」などがある。
増刊号の造りは講談社発行のむかしの少年倶楽部、幼年倶楽部、少女倶楽部の増刊号をいくらかしのばせてくれるものである。
読みはじめたら息もつかせない読みものばかりで、血を沸かせ、胸を踊らせ、思わず手に汗をにぎらせ、おかしさに笑い出し、感激に涙する−この増刊号は名作の花園と形容することができる。
読みものや名作は、昭和28年当時、漫画によって読者に内容等を伝えるという方法は殆ど考えられていなかった。今でこそ漫画は有効な手段となっており、手塚治虫の「新寶島」がそのはしりであることは申すまでもない。山川惣冶の絵物語にもその兆しが見えており、「漫画少年」に連載された「ノックアウトQ」をその例としてあげておきたい。
「漫画少年」の昭和26年三月号から十二月号まで連載された佐藤紅緑作、大槻さだお画「ああ玉杯に花うけて」は、絵小説とも呼ばれ、立志感激ものを如何に表現・伝達するかを試みた作品と捉える。美しい友情と師弟愛、正義と熱血、友情と感激など地味な作品の内容を伝える方法が徐々に開発されるのである。そして漫画は今では新しい表現様式のジャンルを確立したと言える。
二月号は、巻頭に四色刷りの「ジャングル大帝」、それに一色ではあるが「チョウチョウ交響曲」が連載され、この二作品が、やはり圧巻である。
三月号は、「チョウチョウ交響曲」が四色刷りで冒頭を飾っているが、その第一楽章が終わり、次号より第二楽章が始まる。「ジャングル大帝」と「漫画教室」は引き続き連載されており、末ながく続いてほしい作品である。
四月号は、進級おめでとう号と銘打ち、「ジャングル大帝」はアルベルト編が四色刷りでスタートする。読者の投稿漫画は愛読者漫画東西対抗大試合となり、手塚治虫が行司役をつとめ戦評を載せている。
また、「灰色くびの野がも」という漫画映画を、手塚治虫がさし絵を描き解説をしている。
なお、四月から私は高校生となり、漫画を一時卒業することになる。しかし「ジャングル大帝」が終わる昭和29年三月まで「漫画少年」を買い続けた。
五月号は、子供の日お祝い号として発売された。表紙は手塚治虫の「金魚さんこんにちは」の漫画で構成されている。「チョウチョウ交響曲」が四色刷りで巻頭を飾り、「ジャングル大帝」は二色刷で、やはり「漫画少年」の二本柱である。
また、呼びものとして、うしおそうじの長編探偵読切漫画「ジャガイモ君よ村へ帰れ!」と愛読者東西対抗漫画大試合があげられる。
六月号からは、多色刷りのページがかなり増え、美しい造りの雑誌になっている。
「ジャングル大帝」「チョウチョウ交響曲」は四色刷り、「豪勇金時」「ストレート・アロー」「絵ときシリーズ」「てるてる兄弟」、特集の「漫画教室あれこれ問答」は二色刷である。
七月号は、表紙が手塚治虫構成の”わーよくばりすぎたァーッ”ディズニー製作うしお・そうじ絵の「ちいさなインディアン」四色刷りが目を引く。
「チョウチョウ交響曲」と「てるてる兄弟」は四色と二色が一ページ毎にあり、「ジャングル大帝」は四色で、美しい造りである。呼びものとして、八人の漫画の先生(茨木啓一、白路徹、瀬越憲、古沢日出夫、夢野凡夫、うしお・そうじ、田中正雄、馬場のぼる)による新しい合作漫画「七つの幸福」、福井英一の新連載漫画、日本版西遊記「カボチャ三勇士」の二作品があげられる。
また、ディズニー製作、手塚治虫の「僕は機関手」も興味深い。
さて、次の号はオール漫画号となっており、八・九月の合併号である。合併号としたのは売れ行き不振を乗り切るためなのか理由は分からない。
奥付を見ると、七月号は28年七月二十日発行、夏休みオール漫画号(八・九月合併号)が28年八月三十日発行(裏表紙には九月二十日発行の印刷がある)。十月号は、十月二十日発行となっている。九月号の発行が中止されたのであろうか?もう少し掘り下げてみたい。
八・九月合併号の中に夏休み特別大懸賞があり、締め切り日は九月一日絵ある。「漫画少年」の発売日は毎月七日であり、合併号が八月七日発売であるなら、大懸賞の締切り(九月一日)に十分間に合うことになる。合併号を九月七日に発売し、懸賞を九月一日に締め切ることはおよそ考えられない。
なお、八・九月合併号のオール漫画号の呼び物として、前述の夏休み特別大懸賞、茨木啓一の新連載漫画「山猫少年」(四色刷り)、阿部和助の読切痛快絵物語、「四人なら負けない」がある。
冒頭に「チョウチョウ交響曲」(四色刷り)があり、「ジャングル大帝」(四色刷り)「豪勇金時」(二色刷り)と児童向きの立派な造りである。
まる子新聞のページには、『大評判の連載まんがうしおそうじ先生の”チョウチョウ交響曲”が近く一冊の美しい本になって本社から発売されます。楽しみにお待ち下さいね。(まる子)』とあるが、昭和30年七月一日に中村書店から発行された。
次号予告(まんが大ホームラン号)も載っており、読者に期待を持たせる紹介が二ページにわたっている。十月号の発売は九月七日である。
十月は、表紙は手塚治虫の”あっあぶない”、ぶた公が一羽の小鳥を捕まえようと、今まさにわなのひもを引こうとしているところ、そして心配そうな仲間の小鳥たちを描いた絵で、さすが手塚先生といった一枚である。
特集として、手塚治虫の大長編科学漫画「アトム大使」が巻頭を飾っている。以前、雑誌「少年」に連載したものをまとめたものである。
十一月号は、「まんが秋まつり号」と題し、表紙はうしお・そうじの”これはごちそうさま”である。「アトム大使」続編を巻頭に、「四つの夢の物語」を白路徹,古沢日出夫、、茨木啓一、田中久幸の四人の先生が描き、それに「秋祭り大懸賞」の三大特集を組んでいる。
犯人当て?(古沢日出夫・出題)に応募し、29年の新年号に当選者が発売され、私の名前が載ったが、景品の肉筆絵ハガキはとうとう送られて来なかった。
十二月号の予告に、「ジャングル大帝」第三集(定価一六〇円)が、いよいよ十二月はじめに発売されます」とあるが、発売されていない。
おたより欄の中に、学童社から郵便物が届き、中にスケッチブックが入っていた。しかし来年は高校にいきますので、試験勉強のあいだ漫画をかけないと思うと残念です。という内容のたよりが載っていて、自分と同じような体験をした読者が全国に大勢いたということを知り、古き時代を思いおこし、懐古の念にかられる次第である。
また、いままで愛読者だった寺田博雄、坂本三郎の二人が、漫画家として「漫画少年」十一月号から大活躍をし始めているという記事も載っている。
十二月号は、「まんがクリスマス号」と題し、特集として「アトム大使」完結編が載っている。他はあまりかわりばえがしない。
さて昭和28年の「漫画少年」は本誌が十一冊、増刊が一冊、合計十二冊が発売された。
編集の方針もあったと言われるが、発行当時よりうす味になり、いまひとつの感がある。そして徐々に読者のニーズに応えきれなくなり、売れ行き不振の様相を呈していったと思われる。返本が山のようになり、学童社は深刻な経営難を招いたと推測する。
そのため、前述のように愛読者漫画投稿家の優等生を、漫画家として取り立てる方向に編集方針が変わっていく。有名漫画家よりも原稿料が安くあがるという方法に転換したわけである。

まんだらけ目録13号より

S27.06.05 大増刊号
A5版に戻り150頁。全部が美しい色刷り頁と色紙頁のステキな雑誌。
はじめの表紙から最後の頁までまんがでいっぱい。「漫少」5年間の中から傑作だけを選んで集めた 記念の漫画傑作大全集。オール漫画号である。「だんご仙人」(極楽編)、「ふしぎなアコーデオン」、 「カッパ沼の動物たち」、「おじいさん」、「友情配達屋さん」、「腕白タック」等々。



S27.06.20 7月号
別冊付録「プレゼント」日の丸ぼうや3かくぼうや、新連載漫画「冒険ゴット」古沢日出夫。 毎号連載の「ジャングル大帝」、「漫画教室」(投書漫画)、「カラ兵衛」、「少年のための次郎物語」等々、しっかりと連載は続いている。
今後はA5版(雑誌版)で刊行を続けることになる。



S27.07.20 8月号
巻末特別大付録「漫画教室」(夏休み林間学校)、「ジャングル大帝」PART2、新連載漫画「チョウチョウ交響曲」(うしおそうじ)、 他に連載漫画と連載小説、「勇者の道」(白木茂)、「われは海の子」(野村愛正)等の読み切り短編小説、「私のページ」には田中正雄が描いている。
君も僕も、あなたも私も読みたい、買いたいと言わせるのに十分足りる号である。先月(7月)号から、愛読者が急に増えたようだとどこの本屋さんでも言っている。
大判で定価も安い。漫画も読み物も前より良くなったと大人気の雑誌である。



S27.08.05 臨時増刊号
またもや名物のオール漫画号!傑作漫画がぎっしり。おもしろい、痛快だと見ているうちに夏の日はいつしか暮れる。
「三毛ねこミケちゃん」、「もんご山の怪物たいじ」、「おじいさん」、「山の怪童丸」、「ギッタンとバッタン」、「カッパ沼事件」、 「一心太助」、「ゆるりのんきのすけ」その他の漫画ではちきれんばかり。全てこれまでに漫画少年に載った傑作ばかりをあつめたもの。



S27.08.25 9月号
新連載漫画「宮本武蔵の孫」(馬場のぼる)、「ジャングル大帝」はルネ編2、「チョウチョウ交響曲」「冒険ゴット」「黄金百貫目」(田河水泡)「てるてる兄妹」「鉄ちゃん物語」「漫画教室」等の連載が続いている。しかし、絵物語「鉄の道」は最終回。感激小説「カロロ少年の牛」(池田宣政)、特集「夏休みお話大会」「私のページ」(古沢日出夫)。先月号から少女の読者が急に多くなった。それは「チョウチョウ交響曲」{うしおそうじ)が始まったからである。



S27.10.20 10月号
「ジャングル大帝」と「チョウチョウ交響曲」が連載漫画の二本柱。他に「宮本武蔵の孫」「てるてる兄妹」「鉄ちゃん物語」「絵ときシリーズ」(中野正治)小説「少年のための次郎物語」等が連載され、「私のページ」(手塚治虫、中野正治)もあり、大変豪華である。
なお、「チョウチョウ交響曲」の画面に時々音符がでてくるが、自由な曲、メロディー(例、荒城の月やカッコウ・ワルツ等)を口ずさみながら読むとよい。つまり伴奏つき漫画ということになる。